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鷹の人6

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「はい。クリミアは今回の戦いでは,中立宣言をしております。ただ何故か、女王自らこの地にある。調停役を女王自ら買って出ているのでしょう、ならば、それを利用しない手はありません」
「そういうことか。では、我らは出来る限りは戦うな、と言う事か?」
「そうなります。クリミアとデインは、往年より決して良い関係とはいえません。ですが他国のあなた方ならば問題はない。互いに、今回の戦には直接関わりはないのですから」
「まったく、はっきり言う。これだけの大軍勢を前にして、手を出すな、とはな」
「手を出さないで下さい。戦ってしまえば……あなたがたも無関係ではなくなってしまいます。この役割はクルトナーガ王子でも問題はないのですが、ラフィエル王子、あなたがフェニキス王と知り合いと仰っておりましたね?」
「はい。ティバーンとは……幼馴染み、という関係です。セリノス王族と彼とは、兄弟のようにして育ちました」
「フェニキス王始めとするフェニキス勢は、おそらく先陣をきってくるでしょう。ですから、あなたが良いのです。このような役割を、鷺の民に押付けるような真似は申し訳なく思いますが、耐えていただけますか」
 いいながら、なんとも偽善的な物言いをしている、とペレアスは思った。どう言い繕うと彼らの感情と関係を利用することに変わりはない。客人として迎えながら、彼らの存在を最大限に利用すると言っているのだ。
 ニケは当初からペレアスの思惑を見抜いていたのだろう。不愉快げな表情をするも、「まあいい」と呟き、豊かな尾を幾度か揺らすのみにとどめてくれた。だが、ラフィエルはどうか。聞けば非常に繊細で脆い、実に鷺の民らしい性根をしているこの王子が、自分を利用されるのだとわかってもなお、戦場という場に立ってくれるのか。

「今回の主力は、歩兵隊です。ノクスの地形は起伏に富み、複雑です。騎馬部隊では十分にその力を発揮は出来ますまい。弓の扱いに長けた者を中心に、遊撃及び撹乱を担当。フリーダ将軍、指揮はそなたに一任するが、よいか」
「……心得ましてございます。我がマラドの騎馬隊、そしてデインの黒騎士部隊。その力をもって、皇帝軍を弄んでやりましょう」
 フリーダは不服を唱える,覚える事もなかった。確かに、デインの騎馬隊といえば、誇り高く、そして果敢であること、他国にその聞こえも久しい。それはデイン解放戦役においても、より強固に印象づけられる事となった。だが、そのような印象を覆す役割を、かの騎馬隊に担わせるこの発想は、おそらくはペレアスのものだ。なれば、フリーダに異議等はない。部下達は、マラド騎馬隊のみならず、フリーダの決定に従うであろう。彼らの誇りは、何よりもこの若き領主にあればこそ。
「ノイス、そなたら暁の団と、ツイハークを筆頭にした傭兵部隊は丘陵地帯の麓から、この、中央の林道の守備だ。最も激戦が予想される、なればこそ、戦慣れしているそなたらに全てを任せると、それは王のご意向だ」
「は、はい!そりゃあ……きっと、あいつらも、張り切ります!弩兵隊や長弓部隊の連中だって、矢尻を磨くにも気合いが入るってものです」
 つい、言葉と声が上擦ってしまい。ノイスが己の失態に恥じ入るように口髭を指先で弄んだが、タウロニオもペレアスも咎めはしなかった。
「だが、君たち暁の団は兎も角…手柄に逸り、命を落とすような真似は、出来るだけ控えて欲しいと、加えて伝えてくれ。彼らあってこその、デインだと」
 続いたペレアスの言葉に、ノイスはいよいよ鼻頭を赤くさせた。口髭に隠れた唇が震えている。感激しすぎだ、とサザは胸の内でこっそりと思っていた。
「………王、……本当に、俺たちは、俺は…この国に生まれてよかったと、胸を張って言えます」
 サザの内心の毒づきなど気がついた風もなく、ノイスははにかむような笑みを、主君と仰ぐその人に向ける。年甲斐の無い、などとはしかし誰も言わなかった。
「もう一方の、開けた林道には、砦付近に集中して重騎士隊と、魔道部隊を配備します。特に,炎の魔道を操る者を」
「そちら側に重点的にガリア兵が配置されていると、私の言葉を信じるか」
「わざわざ敵陣に単身乗り込んでいらした客人を疑う事は、礼を失することにもなりましょう。まして鷺の民ラフィエル王子の言葉であるのならば」
「ニケ女王、ラフィエル王子、クルトナーガ王子。あなた方の来訪は、おそらくデインにとっての吉兆。ミカヤ殿のその言葉を、我が方は誰も疑っては、おりませぬ」
「我が母が黒竜族に連なるものとすれば、デインという国は、ラグズを厭いながらもしかし、結局の所、その嫌悪していたラグズの存在により、このように生きながらえる事が出来た……そういうことは、この戦が終わっての後、確かに伝えて行かねばと、思います。おそらくはそれが、私の使命なのだと」
 その言葉を、ペレアスは本心から自分が思っているのかどうか、わからなかった。建前としては、そうだという確信はある。そして、言う程それが簡単な事ではなく、おそらく一生を費やしてでも可能かどうかわからぬものだ、ということも。
 ラグズを、損得感情を抜いた上で個人的に信用する、ベオクと同列に考えるには、得た知識やここ二年弱の体験だけでは、まだまだ足らない、とは思っていた。幼い頃に体験した恐怖は克服したが、その経験からなるラグズという種に対する感情を、デインという国は修正はしてはくれなかったからだ。




 青い月は雲に隠れ、音は積雪に吸い込まれる。まさに静寂の闇のはずが、だが、なるほど連中は相当にイカれてしまっているらしい。
「まったく、何が哀しくて闇夜を全力で飛ばなきゃならないんだかね。何処をとっても連中と来たら、人使いの荒さだけは超一流だ」
 闇夜をゆく黒翼の王は、吐き捨てるように呟いた。聞きとがめる者は、誰もいない。側近ニアルチは部下達とともに夜明けを待って出発させることにした。頑固すぎる老人をなんとか口車で納得させて、ネサラは一刻も早くあの場所から、離れたかったのだ。
 ネサラはセフェランを信用などしていない。だが、彼の言った言葉は、ネサラを納得させるには充分だったから従ったまでだ。それすら、おそらく政敵を抹殺する手段なのであろうが、ベグニオンが内部でお互いに潰し合う事は、ネサラにとっては都合がいい。せいぜい、自分で自分の肉を喰らい、痛めつけ、ボロボロになるがいい。

「自由になりたくはありませんか」
 ぞっとする優しい響きを伴う声で、突然ネサラを尋ねた宰相はそう言った。最初ネサラは彼の言葉を鼻で笑うことで一蹴した。だが、セフェランは言葉を翻さない。あまりのくどさに、ネサラは不機嫌さを隠さずに拒絶しようとした。だが、セフェランの漆黒の瞳が、ネサラを射抜いた。
 狂気ではない。だが、正気ではない。ネサラの背を、冷や汗が流れ、落ちてゆく。その長い時間を沈黙で守った後、セフェランは言葉を重ねた。
「キルヴァス王。貴方の国を、貴方が、自由にしたくはありませんか」
作品名:鷹の人6 作家名:ひの