楽園
“―――てぇところだな。やることばっかりありやがるからたまにゃ息抜きしてえんだが、お目付役が出来ちまったからなあ。石田はすげえな、家康。お前が見たらたまげるほど元気だぜ。飯は食うし夜もきっちり寝てやがるし顔色もいい。そんでやれっつったことは――いや、言わねえことでも全部やっちまうんだ。こないだは無駄遣いがばれてひでえ目にあったぜ。何でも出来るってえのは時に考えもんだな。なあ、家康。石田は元気だ。普通なんだ。喋るし食べるし飲むし眠るぜ。なあ。こいつは本当にあの石田か。こっちに来てからあいつは、一度だって口にしやしねえよ。お前のことも、大谷のことも、口癖みてえに唱えてたっていう豊臣秀吉と竹中半兵衛のこともよ。
一度、来てみてくれねえか。図々しいかもしれねえけどよ、こいつをそっちに連れてくわけにもいかねえよな……”
家康がそれまでにも増して精力的に政務をこなし、旅支度をして四国へ向かったのは、そのひと月ほど後のことだ。