楽園
その事実を知りながら時折そこにひとり佇んでいるのだと聞き、家康は頷き返す。そして迷いもせずに立ち上がった家康を、元親は追わない。ただその背に向けて呼びかける。
「あいつは不器用な奴だなあ、家康よう」
「……ああ、」
短いながら深い色を秘めた相槌を聞き、元親は痩せた男の姿を思い浮かべた。それは今この地にある男の姿ではなく、具足を纏い地を駆け憎悪を叫んだ禍々しい武将の姿だった。
「許せねえんだ。自分のことすら許せねえ。知らずに犯そうが罪は罪だってな、……たぶんあいつァ、許すって言葉を知ってても、それがどういうもんなのかわからねぇんだな……」