青春その後
盛り。なんだろう、前はトマトが好きなのかと思っていたけど、最近はキャベツが流行と
か?
リュウシさんの宣言通りに机に置かれた三種のフルーツ(?)を見つつ、とりあえず敷いてあ
った座布団の着席。
・・・リュウシさん遅いなぁ。なんか手持ちぶたさでいけない。ここは深呼吸が必要では
ないだろうか? いやいや、他意はないよ? ただ、初めて訪れた素敵な同級生のお部屋
で緊張気味だから、部屋主がいない間にリラックスしようと思ってさ。
前川さんの部屋にお邪魔した時とは、なんか微妙に心境が違うしさ。うん。
さあ、落ち着こう落ち着こう。大きく息を吸ってーー・・・・
「・・・」
あっまーーーーー!なんだろうこの香りは!アロマ? アロマなの!? それとも、目の
前にあるフルーツ共の所為だろうか?
・・・いや違う。これは女の子の・・・
「いやいや、お待たせちゃったよー。改めて、いらっしゃいませにわ君。」
部屋の香りを堪能していた丁度その時、いつもの柔らかい笑顔を作り茶髪を揺らしながら
リュウシさんが部屋に入ってきた。
「ぶふぅ!!」
盛大に吹いた。匂いフェチを否定している身分である。妄想に浸ってるの顔を見られたら
否定できなくなる!
「ちょっ!どうしちゃったんでにわ君!?」
「い、いやいや ちょっとボーっとしてたからさ。きゅ、急に扉開いてびっくりしたんよ!」
「そんな急なりゅうこさんだったかな・・・?」
「ま、まあいいじゃん 大丈夫大丈夫!」
とりあえず話題を変えたくなり無理矢理話を切る。追求されたら言い逃れ出来る自信がな
い。
「な、ならいいか。いやー、にわ君が部屋に来るとか初めてだから緊張しちゃうなー」
おお、リュウシさんも緊張してたのか。
まあ年頃の男女ですものね。緊張の一つや二つしますよね。うちには緊張の欠片もなく
部屋に居座る年頃のはずのスマキンがいるが・・・
「あはは。まあまあ、緊張なさらずに。楽にしてくださいよ。」
「それはりゅうこさんのセリフやっちゅーに」
よしよし、いつものやり取り。これで盛大に吹いた事に話題が及ぶ事はもうあるまい。
「急にお呼びしてごめんごめんだよー。にわ君にお時間があってよかったよかった。」
「いやいや、全然大丈夫ですよー。入試があるわけでもないから、リュウシさんと一緒でお暇お暇。」
そこで普段からプニプニなリュウシさんのほっぺが更に柔らかくなったように動き、ホニ
ャっとした柔らかい笑顔を作った。
出会った頃から変わらない、癒し溢れた笑顔だ。
「うへへぇ。まあ、お呼びしといてなんですが、特別にやる事もないの事ですけどね。だからお呼びした訳でもありますが。それに、いつまでも藤和さんと一緒にしとくと風紀委員的にもピッピーりゅうこさんやっちゅーに。」
「ま、藤和家で暮らすのも後一週間もないから、もう風紀委員さんの出番もないですな。お疲れさまでした!」
リュウシさんに向け、一礼。
しかし、そこで風紀委員と言う仕事を終えるはずのリュウシさんは微妙に眉を寄せていた。
「なんかまだ終わりそうにないんだよねー風紀委員・・・うおー!りゅうこさんの予知能力が騒ぐー!駆り立てられるーー!」
なんか悶えてる。うむー・・・予知能力も大変そうだな。無視しとこ。
「ところでさ。リュウシさんはいつか引っ越しなの?」
「む? りゅうこさんもにわ君と同じで卒業式の2日後だよー おそろおそろやっちゅーに」
そこでスッとプニプニスマイルが消えた。ような気がする。
笑っていない訳ではない。いつもの裏のない、自分を全面に押し出したような明るいリ
ュウシさんの笑顔ではない。無理に笑っているようにも見える。
「リュウシさん、どうかした?」
「ん? いやほらほら、そう考えると後ちょっとなんだなーって」
「ちょっと?」
おかしい。名前訂正を忘れてる。それに、なんかシリアスだ。
リュウシさんはこんなキャラだっただろうか? キャラ崩壊だー
「そうそう。にわ君とこーやって面と向かってお話できるのがさー もう一週間もない訳ですよ。まあ、今日は久しぶりのお話なのですが」
少し照れくさそうに笑顔が変わった理由を言ってくれた。
うーむ。これは卒業目前と言うボーナスステージ特有の青春ポイントの匂いを感じる。
「でもさ、今の時代には携帯なんて物もある訳だし、電話で好きな時にお話しできるじ
ゃないですかー」
「違うんですよねーこれが。 まったく、にわ君はりゅうこさんお乙女ハートをさっぱり分かっとらんですな。ぷんぷんがぷんぷん。」
乙女ハートなんてもんが理解できるなら、きっと彼女以内歴=年齢なんて人生を歩んでないだろう。
「そんなもんですかねー 俺はリュウシさんと話できるなら、直接でも電話でも楽しいけどねー」
「ではさではさ。にわ君的にはりゅうこさんが近くに居ない生活に耐えれるかなクエスチョン!」
マークも使わずにダイレクトな質問だなぁ。考える。
リュウシさんが近くにいない生活かー そーいえば、今まではずっと近くにいたよなー
学校では特に。いっつも一緒に昼飯食ってたし。
生やっちゅーにもそうそう拝めなくなるわけですなー 俺の癒しだったのに・・・
それがないのかー・・・うむ、寂しい。率直に寂しい。が・・・
「正直に、寂しいかなー。」
「ほうほう!!」
「でも、近くにいないからって仲が悪くなる訳でもないし、リュウシさんせっかく大好きなバスケで認められてきたわけだし。寂しいけど、俺はバスケで頑張ってるリュウシさんを応援したいかな。直接のお話は、長期休みの楽しみってのもいいかも。」
出来るだけの笑顔で、考えてる事を伝える。
ここで俺が近くにいる事を望めば状況が変わる訳でもないのだが、もし変わるとしてもそれを選ぶ気にはならない。自分の我儘を押しつけて、リュウシさんの頑張ってるものを無駄にする事なんてできるはずもないし。
「・・・うん、そっか。」
一瞬、泣きそうな表情にも見えた。そして、ここでも名前訂正を忘れてる。
超シリアスだ。どうしたんだやっちゅーに娘。
でも、それも一瞬。次に瞬きをしたときには、いつもの飾らない、ぷにぷに笑顔だった。
「にわ君が応援してくれるなら頑張らなきゃねー!!大学では日本一になっちゃうかも!!燃えるりゅーこさんやっちゅーに!!」
お、ようやく訂正きた。やっちゅーに来た。
さっきまでの謎のシリアスから一転、いつものリュウシさんで日本一宣言。スケールでか
いなぁ。リュウシさんらしいけど。
「すごい目標が! 日本一を決める試合には応援行くからさ。楽しみにしてるわ。」
「おうおう、来なさい来なさい。むしろ、それ以外来なくてもいいくらい!!目の前で一番になっちゃうよ!!有名人だねりゅうこさん。わーーーきゃーーー!」
そこからは特にシリアス化する事もなく、二人でいつのもような雑談に興じていた。
主にリュウシさん最後のインターハイの話を面白可笑しく聞いていた感じだけどね。
素敵な同級生との、楽しい楽しい雑談タイム。
この町に来てから得た、素晴らしい時間。
これからもずっとこんな関係でいたい、素敵な友達だ。