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田舎のおこめ
田舎のおこめ
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青春その後

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粒子が舞った。夕日に照らされて赤く染まった髪から舞いあがった粒子もまた、鮮やかな赤色に染まっていた。
おいおい、さすがにちょっとドキドキする。
心臓の鼓動を隠し、二人並んで歩いて帰る。
横で満足そうに微笑んで歩くエリオを見て思う。
今日はいい一日だったな。



 「すまない転校生。できれば今すぐ手伝いに来てほしいんだけど・・・。」
エリオの働き振りを見学した次の日現在15時くらい。
特にすることもなく自分の部屋で読書に集中していたら突然携帯が鳴りだした。(もちろん、エリオも俺の部屋で読書。ただし漫画。)
ノロノロ動きながら画面を確認・・・画面には『前川さん』。
珍しい。この長身虚弱なコスプレイヤーからの電話は要件がなければ掛かってこない。
何事かと電話に出た瞬間にこの一言だ。
 「・・・へ? 俺が手伝い?」
なんと間抜けな返事だこと。女の子が頼ってくれてるのに『へ?』はないだろうよ。
当の女の子こと、前川さんは特に気にする様子もなく続ける。
 「そう。少し困ってしまってね。」
滅多に人を頼る事のない前川さんが頼み事。うーむ・・・俺に出来る事だといいんだが。

そうして現在16時くらい。
俺は今前川家の居酒屋にて肉体労働中。なるほど、これなら頼まれたのも納得だ。
あの後前川さんは詳しく頼み事の内容と事情を話してくれた。

内容は『店の開店準備を手伝ってほしい』との事だ。
前川さんはすでに店の修行に取り掛かっている。これは本人が志願しての事だ。
『早いとこ、転校生や藤和、リュウシがい心地のいい居酒屋を作りたいんでね』っと言っていた。ほんと、同い年とは思えないなぁ。
そこでなぜ俺への頼み事が出てくるのかと言えば、今日は事情がいつもと違うらしい。
両親共に町内の会合に出席し、人手がないのだ。
元々そうゆう予定になっていたので、両親は開店を遅らせると言っていたのだが『それでは自分がいる意味がない』っと開店準備をすべて引き受けた。
順調に準備をしていたのだが、大方の準備が終わったところで問題発生。
酒樽を運ぼうと思ったら倒れてしまった。『うあー』ふらふら。
確かに酒樽は重量がある。しかし、それを担ぐのに力を入れただけで倒れたのだ。
酒樽は一ミリも動いていない。・・・どーする私。
要約すればこんな感じ。
そこで俺に白羽の矢が立ったのだ。俺も男だ。いくら鍛えてないとはいえ、それくらいはできる。なにより、友人が困っている。断る理由などあるものかい。
すぐに承諾し電話を切る。・・・・視線?
エリオだ。じーっと俺を見ている。うう・・・プレッシャーが・・・
 「ど、どーしたんだ?」
 「イトコ、今度はどこ行く?」
うはー、こないだ約束破ったのを根に持ってる。一応、罰は受けたんだが・・・。
今回は嘘を付く訳にはいかない。というか、特に嘘を付く理由もない。
 「前川さんの居酒屋。どうも人手が足りないから手伝って欲しいんだと。」
 「前川なんとかの居酒屋・・・ふーん・・・いつ帰って来る?」
おや?ついて来ると言い出さない。こないだとはなんか違うな。
別に前川さんが苦手とかって訳ではないと思うんだが・・・考えてもわからんね。
 「そうだなぁー。今度はちゃんと晩飯までに帰るよ。」
 「晩御飯。わかった。約束だよ?」
 「はいはい。大丈夫大丈夫。」
ってか、今度約束破ったら怖い。そんな勇気はない。へたれ俺。

俺に任された仕事は倉庫にあるビールの酒樽10個を店舗に運ぶ事。
一個一個がそこそこ重たい。が、作業自体は30分も掛からずすぐに終わった。
 「おつかれ転校生。いやー、助かったよ。まあ座りな。」
仕事を終え、店舗に戻ったらカウンターに腰を掛けた前川さんがいた。
格好は珍しくいたって普通。ジーンズにシャツ。その上にエプロンだ。
それとも、店員のコスプレだろうか?
 「いやいや、これくら全然大丈夫だよ。前川さんの店員コスプレも見れたしね。」
 「これはコスプレじゃないって。親からね、修行中はコスプレ禁止令が出たのだよ。一人前になったら好きにしろっとの事だよ。」
なるほど。一人前になったらコスプレ居酒屋になるって事だね。
 「しかし、酒樽も運べないとはねー。一人前になるまでに、体を鍛えなきゃならないってわけか。」
 「でも、うあーってならない前川さんは想像できないなぁ。」
 「うん。私も想像できない。最悪、私が店主になったらバイトでも雇うさ。」
それが一番現実的だな。いくら鍛えても前川さんは前川さんだと思うし。
 「さ、バイト料って訳でもないが、手伝ってくれたお礼。ジュースでも飲みねぇ。」
目の前にオレンジジュースが差し出された。丁度喉が渇いていたので遠慮なくいただこう。
 「お、ありがと。遠慮なく。」
差し出されたオレンジジュースに口をつけて飲みだす。
ちらっと横を見たら、薄い笑顔の前川さんが俺を見ていた。いつものからかう様なニヤニ
ヤではない、ちょっと大人な感じの笑顔。
 「ど、どーした?」
 「いやいや、なんでもないよ。ただ、こうして転校生がすぐ来てくれるのも、もう終わりだなーってな事を考えてた。」
 「もうすぐ引っ越しだからなー。でも、長期休みには、遊びに来るよ。リュウシさんもエリオも。」
ってか、エリオは多分この町にいるからいつでも来れるか。
 「楽しみに待っているよ。その時はちゃんと酒を出すから。」
 「いやいや、多分まだ未成年だから。」
それもそうか。っと笑う前川さん。俺も釣られて笑う。
笑い終えたところで、再び大人笑顔の前川さん。リュウシさんもそうだが、卒業前になる
とみんな雰囲気って変わるもんなのかな?
 「ところで転校生。転校生は私とも離れる事になるが、寂しくはないかい?」
笑顔を崩さないまま問われた。
ん? 似たような質問をちょっと前にされたような? デジャブ?
 「離れるって言っても、ずっと会えないって訳じゃないけど?」
 「そうなんだけどね。まあ、少し考えてみてくれないかな?」
うーむ、考える。
前川さんといえばコスプレだよなー。今までにいろんな衣装見たっけ。
その度に驚いて、少し笑ってたっけか。
そのコスプレを見る頻度も激減なわけかー。ちょっともったいないなぁ。
それに、生の『うあー』もあんまし見れないなー。一緒にいる時に『うあー』ってなった
時背中を支えるのはいつの間にか俺の役目になってたっけ。
なにより、他愛もない雑談をするのがすっげー楽しかった。ほんとこの人のキャラは貴重
だな。
離れるのを考えると寂しいなー 前エもん。素敵な道具とかないんだろうか?
寂しい寂しい。ただ、やっぱりあれだね・・・
 「寂しいかなぁ。前エもんとの雑談は楽しいしね。」
 「ふむ。それは私も同じだよ。」
 「でも、前川さんの居酒屋ってすげー楽しそうだからさ。それ想像して、そこにみんなで集まれるの考えたら、その時がすげー楽しみ。」
 「そうかそうか。そんなに楽しみにしてくれるなら、私も頑張らなきゃいけないね。」
大人笑顔を崩す事無く言った。
俺の返事が予想出来ていたかのように、ほとんど表情を変える事がなかった。
おかしいなー・・・いつもならこの辺りでニヤニヤしながらからかって来るんだけど。
作品名:青春その後 作家名:田舎のおこめ