FAアニメ派生集
第十八話<仰げばひかり>
どこを見ても砂漠だった。
同行者が寝静まった夜中に、エドワードはひとり身体を起こして立ち上がる。
夜の砂漠は日中よりも日差しがない分、比較的過ごしやすくなっていた。
ほんの数日前に通った砂漠を、今はまた戻っている。けれど心境はあのときと全く違う。
彼女が―ロス少尉が死んでいないこと、そして無実であることが分かったから。
日除けと寝袋代わりのマントの内で、無意識に機械鎧の腕を触る。まだ熱を持ったままの金属の腕に指先を刺激され、微かに眉をしかめる。
砂漠の乾燥した熱気がずっと身体全体に覆いかぶさっているようだ。風に煽られて塵のように飛んでくる砂が、唇にはりついて不快感を煽る。
そんな中、地平線の上に広がっている満天の星空だけが、ただ涼しげだった。藍色の空にあの男の瞳が映し出されるように感じて、エドワードは知らず彼の人物に思いを馳せる。
(そういえば最近まともに話もしていない)
話をする前に色々なことがありすぎて。
そして自分はめまぐるしく変わる状況についていけず右往左往するだけで、何もできていない。あの男に信用すらされず、邪魔者扱いの始末。
(俺ってほんと、かっこ悪ぃ…)
もっとできることがあったはずと考えてみる。しかしやはり理不尽な事態に真正面からぶつかった挙げ句に、何も状況を変えることができなかっただろうと思う。
無力。それは恐ろしいことだ。
彼に感謝をしなければならない。たとえ邪魔者扱いされても。
彼がこうしてロス少尉に会わせてくれた。生きて。
俺たちのせいで他の命が奪われるのを、救ってくれた。
適わない。
適いやしない。
年齢や経験の差だけではない。彼は揺るがない精神を持っている。悩んだり迷ったりすることを、どこか遠い昔に捨ててきたかのように。
だから、守れる。
だから、強い。
ぞく、とエドワードは身震いをした。俺はとんでもない人間の側にいる。
普段は不真面目で女好きで皮肉ばかりいうあの男が。
彼はできすぎる。いつかもっとさらに手の届かないところに行ってしまう。
言い表せない不安を感じて、エドワードはぎゅ、と拳を握りしめた。
…手はのばせない。
強い風が吹き、フードがなびいて金色の髪の毛が砂とともに舞い上がった。
砂の侵入を防ぐように目を細めて、天を仰ぐ。遠い星がただ静かにエドワードを見下ろしていた。
いつかこうして上に登ったあの男を仰ぎ見るのかもしれない。遠くから。
エドワードは目を閉じた。
いつからだろう、こんなにも大切なものが増えたのは。
スタートは、自分たちの願いを叶えること、ただそれだけだったのに。
自分と弟、ただそれだけだったのに。
今はなぜこんなにも心を揺さぶられる存在がある?
「大佐…」
砂塵に混じるような小さな声で、囁いた。
胸が疼く。