FAアニメ派生集
第六話<今はまだ>
アルフォンスのところに戻らなければ。
頭ではそう考えているのに、手も足も動かなかった。
身体を包むこの体温が、あまりにも俺を痺れさせるから。
離れたくない。
側にいたい。
(だけど、この身体じゃ戦えないから)
明日には故郷へ帰らなければならない。
「大佐・・・俺、戻るよ」
男の肩に埋もれていたから、くぐもった声になった。
「ああ・・・そうだな」
いつもより低い声が応える。
背中に回されていた手が動いて、垂らしていた己の髪をつ、と引かれた。
この男は、俺の髪の毛を触るのが好きだ。
微かに、きこえるため息。
「大佐?」
「ここに・・・・・・閉じ込めておくことなんて
できないと、わかってはいるんだよ」
男は自らを納得させるように、そう唱えた。
きゅ、と胸が痛む。
(俺だって、同じ)
身体が、僅かに離れた。
「たい・・・」
髪の毛がさら、と鳴って、後頭部を大きな手が優しくつかんだ。
顔が自然と上がる。
漆黒の瞳が目の前に、ある。
吸い込まれそうな。
「エドワード、死ぬことは許さない」
ああ・・・
「あんたより先に死ぬかよ」
そう言って、微笑ったけれど
もしかしたら俺は 泣きそうな顔をしていたかもしれない。
かっこ悪いな。
誤魔化そうとして、残った片手で男のシャツを力任せに引っ張った。
首筋に唇をつけて、まるで吸血鬼のように強く吸う。
「エ、ド―っ」
髪の毛を掴む男の指に力がこもる。
その反応に、自らの身体も熱くなった。
唇を惜しむように離す。
男の白い首筋に、紅い刻印。
至極、淫らな。
いまは、それで我慢することにした。
とん、と男の胸板を押して、身体を追いやる。
「明日、見送りになんか、来るなよ」
言い捨てて、まるで余韻を怖がるかのように離れた。
男の指に絡まっていた金の髪が滑り、するりとほどける。
「エドワード・・・」
自らの名を呼ぶその声を背中に感じる。
いとしい、声。
ぎゅっ、と、目を閉じて扉を開けた。
これ以上、あんたの側にいると、離れられないから。
行くよ、大佐。
ちゃんと、生きて戻ってくる。
いつか機械鎧じゃなくて、身体が元に戻ったら
そのときは、
あんたと一緒に 故郷へ帰りたい な