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吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
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FAアニメ派生集

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第七話<あの頃僕は>

   

   


俺はあまりにも子どもで、前しか見えてなかった。
そうできるのは、周囲の大人たちのお陰だと分かっていたはずなのに、気付かないふりをした。
そう、このときは、世界は俺たちの目の前に広がっていることがすべてだったから。



「はい、東方司令部交換台です」
「エドワード・エルリックだけど。マスタング大佐いるかな」
「お待ちください」
回線が切り替わる。ほんの数秒間。息がとまる。

「やぁ鋼の。調子はどうだ?」
相変わらずの涼しげな声。
はぁっと息を吐き出した。
「ああ、腕もアルも直ったよ」
「それはよかった」
「あのさ・・・」
すこし口ごもる。
「俺、今中央に来てるんだ」
「ああ、聞いているよ」
がく。拍子抜けして首がさがった。
一応、東へ戻ってくるのを待っているかも、とか思って電話したのだが。
力が抜けた。
「あんたほんと情報早いな・・・。少佐から聞いたのかよ」
「いや、ヒューズ中佐からだ。アームストロング少佐の上官は、私ではなくヒューズだからな」
つまりまず中央勤務の少佐から中佐へ伝わり、そこから東の大佐へ、という流れで伝わったわけか。
「大層なことで・・・」
「気にするな。ヒューズは暇さえあれば電話してくるやつだ」
迷惑そうに言うその声音に、けれど他にはない親しみがこもっていることをエドワードは知っている。
「あんたとヒューズ中佐が仲良いのって、ほんと不思議だな。中佐はあんなにいい人なのになー」
すこし親バカではあるが。
「どういう意味だねそれは」
「あんたと違って。っていう意味だよ」

「だいぶ元気になったようだね、鋼の」
声音がやわらかくなった。どきりとする。
「ああ、石のことが何かわかるかもしれねーんだ」
「そうか。健闘を祈るよ」
「どうも」
「中央でのことは、ヒューズに頼んである。ああ見えて頼りになる男だ。何かあったら相談するといい」
「根回し早いな・・・。あんた、俺の保護者かよ」
「私の管轄外では、私は何もできないからね。保険と思えばいい」
微妙にはぐらかされた。
「へーへー。じゃあな」
そっけなく答えて、受話器をおろした。


「よう、エド。休憩か?」
「ヒューズ中佐!」
振り向くと笑みを浮かべた人の好い顔。
「いや、大佐に報告の電話をちょっと」
何となく言いづらくてぼそぼそした声になった。
「ああ、ロイのやつ心配してたからな」
まぁたまには人の心配するくらいがちょうどいいんだあいつは、などヒューズが話し続ける。が、エドワードの耳にはほとんど入っていなかった。
『ロイ』
そうだれかが呼ぶのを、そういえばあまり聞いたことが無かったから。
「中佐と大佐って・・・ほんとに仲良いんだな」
ヒューズが興味をひかれたようにこちらを向いた。口元の笑みが深まる。
「まぁ、俺たちは士官学校時代からの仲間だからな」
それだけではないことはわかる。
先刻の電話でのロイの話しぶり。
それは、ヒューズに対する全幅の信頼。
そして、ヒューズもきっと同じはず。
「なぁエド。あいつはまじめすぎるから、俺みたいな大雑把なやつがいてちょうどいいんだよ」
あの大佐が、まじめ?
エドワードは異論を唱えたくなったが、なんとなく悔しくてやめた。
きっと、中佐は、俺の知らない大佐をもっとたくさん知っている。
俺には見えない、ふたりの絆がある。
ちくり、と胸が痛んだ。
同時に、この男には到底敵うわけがない、と思う。


ヒューズと並んで、歩き出した。
「大佐が何かあったら中佐に相談しろってさ」
「おー、何でも言ってくれ!俺でできることなら何でもしてやるぞ!」
「でも中佐も忙しいんだろ・・・。さっき書類持ってばたばたしてなかった?」
「いやー見られてたか!大丈夫、次は15分後の会議だ」
「忙しいんじゃんか・・・」
ははは、と明るく笑う男の横で、エドワードもつられて笑みをこぼした。
胸の痛みはあるけれど。
こんな温もりと優しさを自然にくれるこの男は、エドワードの中でもあたたかい存在になっていたから。

敵うわけない、
素直に、そう思った。

だけど。いつか、ちょっとずつでも追いついて―







あのとき、俺はまだ子どもだったから、子どもでいることに甘えていた。
それなのに大人のふりをして。
何でも自分達の力でできると、思っていた―――。
  

作品名:FAアニメ派生集 作家名:吉野ステラ