5月は恋の季節
「かんぱーい!」
お互いのグラスを合わせて、各々が口をつける。
簡単な自己紹介の後は、お決まりのように馬鹿騒ぎが始まった。
「ヴェーこれ美味しい! ねーねー菊、これ美味しいよっ」
「フェリシアーノ、お前はちゃんと座ってろ! っと、本田、こちらもなかなかうまいぞ。ほら」
「あのお二人とも、自分でとれますから」
「えーだってこれ美味しいよー」
「さっきから減ってないじゃないか。本田はもっと食べた方がいいぞ」
向いの三人の様子を見て、おやおやとフランシスは自分の印象を訂正した。
どうやらこの三人は本田を中心としているらしい。控え目な感じの子だけどなーっと思いながら見つめていると、また目が合って照れくさそうにはにかまれる。
「おいじじい、ルートを独り占めすんな、あと俺様に酌をしろ」
「ギルベルトさん、その呼び方はやめてくださいね」
「うっせー、お前の方が年上だろうが」
「え! そーなん!? 菊ちゃんって俺らより年上なん?」
「ええ、あの、お恥ずかしながら浪人しておりまして……」
両端のルートとフェリシアーノから世話を焼かれていた本田は、ビールをギルベルトに注いでやると、手酌で自分のグラスにも注ごうとする。
「おーっとストップ」
「え……」
「そういうのはー、自分でついじゃダメでしょ? 三人の入学祝も兼ねてるんだから! ね?」
本田の手から瓶を奪うと、フランシスはウィンクしながらそのグラスになみなみと注いでやった。
「はあ、ありがとうございます」
そう言って口をつけ、本田はわずかに眉をしかめた。
「あれ、あんまりビール好きじゃない?」
「あ、ああ……いいえ、あの。どちらかというと、日本酒が好きなもので」
「わお! 菊ちゃんてば強いんだねえ」
「そういうフランシスさんも、お強いんじゃないですか?」
目顔でワインの瓶を示されて、あははと笑えば、本田も笑った。
にゅっと腕が突き出されて、日に焼けた手がぐりぐりと本田の頭を撫でくり回した。
「菊ちゃん可愛えなあ!」
にこにこと人好きのする笑顔で撫でまわされて、本田は「あの、ちょっと、待ってください!」と抗議の声を上げているが、本田の何がツボに入ったのかご機嫌なアントーニョの耳には一向に入っていないようだ。
「あーダメだよ! 菊にぐりぐりする権はオレのなんだから!」
「なんだその妙な権利は」
本田をぐいっとばかりに引き寄せて「ねー?」と同意を求めるフェリシアーノに、眉間を押さえたルートヴィッヒ。酒が入っていないはずの二人もテンションがあがっているようだ。声が大きくなっている。
「えーいいやん、ちょっと位なでなでしたって」
「一人楽しすギルぜー! っておい、もうちょっとこっちも構えよこら」
ぎゃあぎゃあわいわいと騒がしく、いつの間にかそれぞれが杯を重ねていった。
途中で飲み干すスピードを落そうとすると、それを見越したギルベルトとアントーニョがどんどん注ぎ足し、もうワインなのか日本酒なのかカクテルなのかよくわからない状態で、フランシスは珍しくすっかり潰されてしまったのだった。