5月は恋の季節
5月は恋の季節3
本田に声をかけられた場所に戻ると、携帯電話の持ち主であるギルベルトはいなかった。
「ギルの奴は?」
「アントーニョさんと講義へ行かれましたよ」
「あー、代返頼みたかったんだよ」
「ご心配なく、頼んでおきましたから」
「へ? そりゃ…どうもありがと……」
ふふ、と小さく笑うと、本田は封筒と布包みを差し出した。
まず布包みを受け取って開けば、中には確かにブレスレットが入っている。
「すみません、そういったものに詳しくないので扱いがわからなくて。傷などついていませんか」
「いや大丈夫でしょ。あ、これ洗って返すね」
「いえ結構です。それよりこちらもお受け取りください」
包んでいたハンカチらしきものの返却をきっぱりと拒否して、本田はブレスレットを持ったフランシスの手に無理やり封筒を乗せた。当然落ちそうになるのを、フランシスが逆の手で捕まえると、ぺこりと頭を下げてそのまま行こうとする。
慌てて封筒と本田の背中を視線で往復した。
「ちょ、ちょっと待って、これ、中身は!?」
「さあ、ちょっと人に言えないようなものです。お一人でみてくださいね」
「人に…って、おい、ちょっと!」
きびきびとした足取りで、一度も振り返ることなく、本田はすぐに角を曲がって見えなくなった。
ぼーっとその後を見ていたが、変な写真とかだったらどうしよう、とフランシスは慌てて手近なトイレの個室に飛び込んだ。
急いで中身を確認してみると、そこには何枚かの札が入っていた。
「なんだこれ…?」
さーっと血が下がった後、一気に頭に駆け上った。
別に自分は金がほしくて彼と寝たわけではない。あれは事故だ。
体を売ったこともないし、そうする予定もない。本田をゆすろうとも思っていない。
ぐしゃりと封筒を握りつぶすと、札以外の紙が入っていることに気づいた。引っ張り出してみると、それは小さなメモだった。