5月は恋の季節
“あの場は割り勘です。多かった分一万六千円をお返しします。
先日のことはお互いに忘れましょう。
それから、お金で買われたようで大変不愉快でした。”
「あ」
ラブホテルで、動転してばらまいて帰ったのだ。
その行為にさっきフランシスが覚えたのと同じ怒りを、本田も感じたのだろう。
「うわ、どうしよ、俺ってサイテー……」
呟きが漏れる。
本田にしてみればたまったものではないだろう。明らかに事後のラブホテルで、相手はいなく金だけが残されているのだ。考えれば考えるほど、最低なのはフランシスの方だった。
それだけで激怒するか、少なくとも関わり合いになりたくないと思うはずだが、本田はフランシスの忘れ物をきちんと届けてくれたのだ。
「謝んなくちゃ」
決して許してくれないかもしれないが。
混乱していたので定かでないが、金をばらまいて帰ったのはホテル代のつもりだったと説明して、顔を見て一度謝ろう、と決意したフランシスは、自分が本田の連絡先を知らないことに気づく。飲み会の場で連絡先の交換をしなかったのだ。
しかし、ギルベルトもアントーニョもフェリシアーノもルートヴィッヒも、誰も本田菊の連絡先を教えてはくれなかった。
「菊から絶対に教えちゃダメって言われてるから。それにしても、何したのー?」
ヴェーと言いながら、フェリシアーノが首をこてんと傾けた。そんな幼い動作が不思議と似合う。
「菊ってすっごく優しいのに、あんな顔見たの初めてだったよ!」
「普段あまり顔に出さない奴だが、あれはな……」
ルートヴィッヒとフェリシアーノは互いの顔を見合わせた。
「本当に、何をしたんだ?」
「んー……詳しくは言えないんだけど、とにかく俺が悪いわけ。もんのすごく悪いの。で、それをめちゃくちゃ後悔してるから、本田に謝りたいんだけどさ」
「逃げ回られている、ということか」
「そーいうこと」
二人はもう一度互いの顔を見合わせた。
「俺達から本田に話してやってもいいぞ?」
「みんなで仲良くした方が楽しいしね」
「……メルシー。でも謝るのは、俺が直接じゃないと意味ないじゃない? でもそうね、そうだなあ……会いたいです、って言っておいて? あとこう見えてお兄さんも執念深いし、反省してるから、ちょっとやそっとじゃ逃げきれないって言っておいて!」
ここまで徹底して避けられているということは顔も見たくないということだろうが、半ば自棄になったフランシスは、どうあっても本田にもう一度会おうと決めた。