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仮面舞踏会

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「向かいの建物は宿泊できるようになっているんだよ」
「へぇ……」
「ここはね、三百年前に建てられたんだ。今はそんなことないけど、昔の移動手段は限られていたからね。遠方からくる客用に、部屋が用意されていたというわけさ」
「なるほど」
 ビリーの薀蓄に、グラハムは素直に感心したような相槌を打った。彼といてビリーが気持ちいいと感じる部分の一つである。
 室内に入り、今度は中の階段を使って二階へと上がる。空いている部屋を一つ借りて、内側から鍵を閉めた。これで二人きりの空間は完成だ。
 部屋の中央付近で立ち止まり、あたりを見回していたグラハムが、近付いてくるビリーに気づいて身体の向きを変えた。
 スラリとしたしなやかな肉体が、ドレスの上からでも判別できる。痩せてはいるが、その下に隠された筋肉は、鍛え抜かれたアスリートのように美しい。
 彼の手が上がり、ドレスと同じ色の仮面に触れる。それが静かに外されていくのを、ビリーは黙って見守っていた。
 そして現れた素顔に、思わず感嘆の溜息をこぼす。
 化粧は施されているけれど、ビリーは素直に綺麗だと思った。元の造形が優れているから、かもしれないが。
 引き込まれるように自分の仮面を外して、ビリーもグラハムの前で素顔をさらした。もっとも、彼の記憶の中と、今の自分の姿に大差はないだろうけど。
「おばさんに感謝しなくちゃね」
「自分ではあまり見たくないのだがな」
 鏡に映った顔は、自分であって自分でないものだった。仮面を被ることと、化粧をすることは、同じ意味合いを持つのだと、グラハムは思ったものだ。
「僕は何も問題ないけどね」
 ビリーの俗な言葉に、グラハムは侮蔑のこもった視線と笑みを浮かべてみせた。
「男は見た目が美しければそれでいいのだろう。中身がどんな悪魔か、修羅であったとしても」
「手厳しいね。その通りだけど」
 現実を思い出して、ビリーは自嘲気味に笑う。例の酔いつぶれた女神からは、内面からにじみ出てくる美しさなど何も感じられない。
 しかしそれでも構わなかった。彼女という器がそこにありさえすれば。
「冗談だ、許せ」
 グラハムのそれは自分へ向けた皮肉でもあったから、ビリーの傷ついたような表情を見て、すぐさま後悔を覚えてしまった。
 わかりやすく落ち込みを見せるグラハムに、ビリーは微笑んだ。
「いや、ホント。事実だから。君が美しくて、僕はそれだけで満足さ」
 多少のおどけも含ませながらそう言うと、落ち込んでいたグラハムからも控えめな笑みが出ていた。
 これ以上話を続けていくと、互いに知られたくない内面や事情をうっかり洩らしてしまいそうだった。敏感にそれを察知しあうと、雰囲気を作り出すための口付けを交わしだす。
 そのあたりはもう慣れたもので、長い付き合いというものにビリーは感謝した。
「ドレスは脱ぎたくないんだ」
 後が面倒くさいと、グラハムは訴えた。
「いいけど、それだと後ろからになるよ」
「構わない」
 彼は抱き合いながらするのが好きだから、いつも大抵正常位での行為だった。それをやめてでもしたいという訴えに、ビリーも気持ちが逸っていく。
「ドレスを汚すのもよくないよね」
「……持っているのか?」
 紳士のたしなみを。
 グラハムの問いに、ビリーは首を振って軽く笑った。それこそ、皮肉っぽくという笑みだった。
「こういうことをするために、この部屋は残されているんだよ。だからたぶんこのへんに……、ああ、ほら、あった」
 ベッドの脇に置かれた小さな棚の引き出しを開けると、そこには避妊具やゼリーといった道具が収められていた。
「なんと」
 グラハムは目を丸くする。
「貴族のたしなみ、かな?」
「なるほど、洒落が効いているな」
 痛烈な皮肉を繰り出すグラハムの美しさといったら、神々しくてひれ伏したいくらいだった。美人が凄むと迫力あるという説は本当だなぁと、ビリーは避妊具をありがたく拝借しながら思った。
作品名:仮面舞踏会 作家名:ハルコ