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仮面舞踏会

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   ***

 グラハムの名誉のためにフォローしておくと、軍人の男が女性相手に本気の力を振るえるわけもなく、形ばかりの抵抗を見せていただけだった──のだ。人はそれを言い訳と呼ぶのだが。
「……」
 グラハムはもはや反抗する気力もなく、彼女に言われるまま指示に従うマリオネットと化していた。
 ホーマー妻は上機嫌でバスタブに湯を張っている。中に何かピンク色の液体を垂らしていたが、しばらくするとフローラル系の香りが漂ってきたので、エッセンスオイルか何かだろうと、見当をつけた。無知なグラハムでも、そういう存在があることは知っている。
「はい。じゃあ、お湯が張れるまで時間があるから、身体を洗っちゃいましょう」
 ツルツルにされた全身を眺めて、確かにそれだけでずいぶんと見栄えがよくなったような気がするから不思議だった。
 それはさておき、身体くらいなら自分で洗えるからとボディソープに腕を伸ばしたところ、脇の下から何やらヌルリとしたもので胸の辺りを撫でられ、思わず背を仰け反らせてしまった。
「──ひゃっ!」
「あ、やっぱり弱いのね。剃っているときからそうかなって思ったけど」
 驚いて下を見れば、彼女の指先と掌がグラハムの胸の辺りを撫でていて、しかもときおり乳首を挿んだり上下に揺すったりという動きまで加えていた。
「な、何をしているんですか……!」
 もう本当にこの人の暴挙は留まるところを知らない。ぴったりと背中に密着されて、振りほどくこともできない。けれどいい加減辛抱もきかなくなってきたので、悪戯してくる手首をつかんで外そうとしたら、
「貴方とビリーって、どういう関係なの?」
 耳のすぐ近くから聞こえてきた声に、グラハムはまたしても動きを止めてしまったのだった。
「ど、どういうって……」
 グラハムは説明に困った。嘘やごまかしが苦手なため、バカ正直に告白するしかないのだが、それをそのまま打ち明けるには、彼女がビリーの親戚ゆえ躊躇われる。
 返事に困って下を向いていると、そんなことはお見通しとばかりに彼女の腕が優しく抱きしめてきた。
「ねぇ、女同士の秘密の話をしましょう」
「……女じゃありません」
 クスクスと、彼女の笑い声があがる。
「貴方は今日、女になるのよ? もう今のうちから身も心も女になっちゃいなさい。覚悟するのよ、グラハム・エーカー」
 耳元で告げられる、予言か占い師のような響きを持つ掛け声に、グラハムは否とは言えなかった。
 どのみち、身体の隅から隅までを彼女には見られている状態だ。今さら抵抗するだけの反発心もない。グラハムは肩の力を抜いた。
「ねぇ、どういう関係なの?」
「……親友だと思っています」
 それは嘘じゃない。男同士の親友という枠組みを少し超えるかもしれないが。
 あら、と彼女は微笑んだ。
「それは素敵な関係ね。で、身体のほうの関係は?」
「か、からだ!?」
 あまりにもストレートな質問に、グラハムは瞬時に顔を赤くした。それだけで答えを暴露しているようなものだった。
「やっぱり抱き合ったことがあるのね。貴方たちは揉めたりしなかった? どっちが上か下かで」
「それは……、なかったです」
 すでにバレバレなことをごまかすなど、グラハムには不可能だったので、当時を思い出しながら答えた。
 上か下かで実際に揉めることはなかった。それは実に単純な理由によって、である。
 ホーマー妻の腕が、また微かに動き始めた。スルスルと滑るように身体を這う腕の動きに、グラハムの意識が集中していく。クリッと乳首をつままれ、ピクリと肩が震える。
「貴方は優しいのね」
「……えっ?」
「貴方のほうが折れたんでしょう? ビリーって優しげなくせに強情だから、嫌なことは絶対しないものね。子供の頃からそうなのよ、あの子」
 ビックリするほど頑固なところがあるの、と彼女は懐かしむような響きを含ませながら言った。肌の上をツウッと滑る指が、へその上を通り、バスタオルの上から股間にたどりつく。
「あ、ちょっ…、そこは」
「そうしないと関係が進まないから。貴方が受け入れる側に回ってあげたんでしょう? 優しい子だわ、大好きよ」
「ち、違います、私がそうしたかったから…」
「まぁ、呆れた。貴方そんなことビリーに言っちゃダメよ。男なんてすぐにつけあがるんだから」
 股間の上を柔らかくまさぐりながら、彼女の首が伸びてグラハムの頬に残る傷跡へとキスを落としていた。
「あ、う…、ダメです、そんなこと……」
「いやね、浮気じゃないわよ。私が愛しているのはホーマーただ一人だけよ」
「──!」
 『愛している』という台詞に、グラハムは胸が締め付けられそうになった。彼女のようにハッキリと断言できるだけの自信が、今の自分にはない。
 愛とは境界線が引けるものではないから、どこまで踏み込んでいいのかの領域が測れずにいるのだ。深追いしすぎて過去に一度失敗しているからこそ余計に、『愛している』なんて台詞は吐けなかった。
 いつか自分はまた何かを、大切なものを壊してしまうのではないか。そんな不安が拭えない。
「…あっ、何を──!」
 自責の念に囚われていたグラハムの意識が、急に現実へと引っ張られた。ホーマー妻の腕がバスタオルの下をかいくぐって、中まで入り込んでいたのだ。
 ヌルリとした感触が、久しく誰にも触られたことのない箇所へ当たっている。
「エステ用のオイルよ。無害だから安心して」
 彼女の細い指の先がツプリと挿入されて、久しぶりの感覚に、グラハムの肌が粟立った。
 ダメなのだ、その行為は。自分の罪を忘れて快楽に溺れてしまいそうになる。何故なら身体は、いまだに覚えているからだ。かつてビリーがそうしてくれた、行為のすべてを。
「貴方、何を気に病んでいるの? ビリーに何か後ろめたいことでもあるの?」
 ホーマー妻の質問に、グラハムは快楽と戦いながら首を振った。あるといえばある。けれどそれは解決の糸口さえ見つからない、根深いものだった。

 ──どうすれば君からの想いに、私は正しく答えられるのだろうか?

 答えなんてわからない。ただグラハムにとって愛とは、重たすぎて身動きがとれなくなるものに、現在は変わっていたのだ。
「ねぇ、それなら素直になって感じていいのよ。ほら、貴方の中にあるのはビリーの指だと思って」
「……っ」
 カタギリの、と徐々に曖昧になる現実と夢想の狭間で、グラハムは自己暗示をかけた。ビリーの指が奥へ奥へと侵入してくる。内壁を擦る腹の感触、前立腺をコリコリと刺激されて、恥も外聞もなく甲高い嬌声をあげた。
「ああ、あ、カタギリ……!」
 浴槽の縁に手をついて、彼に犯される自分を想像する。どんどんと昂ぶっていく己の中心がバスタオルの白い布を押し上げていった。直に触れてきた手が射精を促すように上下に動かされると、ブルブルと身体を震わせながら、グラハムは果てていた。
作品名:仮面舞踏会 作家名:ハルコ