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物体もじ。
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ロックマンシリーズ詰め合わせ

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19/予定外の出来事 (ロックマンエグゼ・炎熱)



 言うなれば、彼に出会ったこと、そのものが。





 これまで、すべては予定調和の中にあったのだ。

 決められた道を、決められたように歩いていた。そこで出会う何もかもが誰かによって必要とされたことで、それは自分のところにはすでに決まりごとになって届いていた。

 隙間も乱れもなく塗り固められた理屈という土台の上に積み上げられた何もかもが、寸分の狂いもなくあるべき場所に収まっていく、それはある意味では安心も満足ももたらしてくれるものだった。


 けれど、そんな中に、まるで自分も予定調和だったように紛れ込んで、そのくせ、今までのすべてを突き崩して、その上に遠慮もなく居座ってしまった存在が、ある。



「腹減った」

「そうか。なら帰れ」

「やーだー」



 来客に快さを―――あるいは、無言の威圧感を提供するために選りすぐられた、高級でクッションの効いたソファに、明らかに相応しくない存在が寝そべっている。

 しかもあろうことか、その上に漫画とスナック菓子まで置いて。

 まるで自分の部屋であるかのような寛ぎ空間を確保しながら、光熱斗は厚かましくも部屋の本来の主に空腹を訴えた。


 長い間ディスプレイを睨み続けてきたせいか、それともたった今にわかに襲ってきた頭痛のためか。眉間を軽くマッサージしながら、炎山はこれ見よがしに大きなため息をつく。



「お前、ここをどこだと思っているんだ」

「IPCの副社長室」

「お前が腹が減ったからと言って、何か出てくるとでも思っているのか」

「とかって、いつも何か出てくるじゃん」



 お茶とか、おやつとか。昼時なら軽食さえも。


 指折り数えて列挙されるまったくの事実に、炎山はますます眉間の皺を深くした。


 大体、部下たちが気遣って(何を気遣っているのかと思えば、それもまた不機嫌を加速させる)何やかやとこの部屋に差し入れを持ってくるのが悪いのだと、いささか八つ当たり気味に考える。

 炎山一人でいるときには、飲み物の差し入れこそあるものの、食べ物の類いを彼らが持ってくることなど、まずない。

 それなのに、熱斗がいるときには、彼らは何故かそれを欠かさないのだ。


 だからつけ上がるのだと、心中で毒づく。

 ここは、彼の家でも彼の友達の家でもましてや彼の遊び場などではない。絶対に、ない。


 邪魔をしないと言うから置いているだけで、本来なら、彼のいるべき場所ではないのだ。

 それなのに、彼はこうやって傍にいて、とことんまで炎山の予定も平穏も狂わせる。



「この間のサンドイッチ、うまかった〜。カレーとか出たらサイコーなんだけどな」

「阿呆が。そんなものをこの部屋で食べられるか」

「何で。うまいじゃん、カレー!」

「仕事場なんだぞ、ここは」

「だからモリモリ食って頑張るんだろ?」

「……もういい」



 客を通すこともある部屋なのだ、とか、本来仕事場に食べ物の匂いは好ましくない、とか。

 恐らくそんなことは、考えもつかないのだろう。そうに決まっている。


 自分の知らない世界には知らないルールがあるのだと言うことを、気づかないのか、それとも。



 ……それとも?



「6時」

「……何だって?」

「だから、6時」

「6時だな」



 言われてふと窓の外を見れば、空も赤く染まりかけている。もうすぐにでも景色はその色に、そして間を置かずに黄昏の薄青にと沈んでいくのだろうと、思った。


 夜が来るまであとわずかの、そう、子どもにとっては、1日の終わりを告げるような、その景色と時間。



「熱斗、そろそろ帰れ」

「晩ごはんの時間」

「……だから、帰れ」

「晩ごはんの時間だぞ、炎山」

「………………お前まさか」

「炎山とこに行くー、って言ってあるから、別にママ、心配しないと思う」

「そういう問題じゃないだろうっ!?」

「だって、晩ごはんの時間なのに」

「……何が言いたいんだ」



 執拗に繰り返す熱斗に呆れながら視線を戻すと、いつの間にか起き上がった彼が、ソファの背に腕と頭を預けて、じっと炎山を見つめていた。

 子どもっぽい言葉と行動に見合わない、どこか少しだけ、いつもの彼よりも大人びた眼差しが、赤く斜めに照らし出されている。



「炎山は、いつ晩ごはん食べる気なんだよ?」

「……お前に関係ないだろう」

「てかこの部屋さ。冷蔵庫はあるのにろくなもん入ってないし、机の中におやつがあるわけでもないし」

「何でお前がそんなことを知っている」

「見たから」

「おまっ……!」

「もしかして炎山、この部屋に入ったら、出るまで何も食べないんじゃないか?」

「………………」

「やっぱりな」



 らしくない小さなため息をひとつ吐いて、よいしょ、と熱斗はソファから飛び降りた。

 片手に食べかけのスナックの袋を持ち、ぐるりと炎山の座るデスクを回って横に立つ。

 何となく、黙ってその行動を目で追っていた炎山を見下ろし、その目の前に、ずいっとアルミの袋を突き出して、言った。



「とりあえず、食べろって」



 たぶんニホン人なら誰もが知っている大手菓子メーカーの、スナック菓子。

 突き出されたそれと熱斗の顔を交互に見て、炎山は困惑した顔を作った。


 どうしろと言うのだろう。素直に食べれば、それで彼の気が済むとでも言うのだろうか?

 大体、どうして彼はこんなことをしているのだろう。



「コーヒー3杯。しかもブラック」

「?」

「とりあえず俺がここに来てから、お前が口に入れたもの。それだけ」



 言われて記憶をたどる。そうだったろうか。

 数までは覚えていないが、まあ、他に何も口にしていないというのは確かだけれど。


 そこまで考えて、炎山はおぼろげに悟る。つまり熱斗は、それが身体に悪いとでも言いたいのだろうか、と。

 だからと言って、そこにスナック菓子を詰め込んだからとて、栄養になるわけでもないのに。


 そう、思いながら。炎山の手は差し出された袋の中に伸びていた。素直に口に入れ、噛み砕く。少しだけ湿気った味が、この袋が開けられてからの時間を示していた。



「うまいだろ」

「……そう、だな」



 そんなはずはない、と、炎山の中に敷き詰められた理屈が言う。たかだか子どもの小遣いで買えてしまうような菓子、しかも時間が経って湿気っている。うまいと感じるはずがない。

 それでも、そこから芽を出した何かが声を紡がせるのだ。それでもこれを、自分はうまいと感じている、と。

 その理由を、同じ声が訴える。なぜなら、他でもない、彼が自分を思って差し出したものなのだから、と。


 強固に塗り固められていたはずのそれを叩き割り、下から何かが芽生える隙間を作ったのは、いつの間にかそこに居座っていた、光熱斗という少年。

 与えられた、他でもない自分への気遣いという名の水を求めて、知らずに言葉が枝を伸ばした。



「……カレー、か」

「カレー、うまいよな? 俺なんか、毎日カレーだったら幸せ」

「確か、お前の友人がどこかの店にいたはずだったな」