ロックマンシリーズ詰め合わせ
09/冷たい手 (ロックマンX・ゼロックス)
「エックス!」
思わず声を上げるのと同時、掴んだ腕は、予想通りの熱さだった。
「ああ……お疲れ様、ゼロ。怪我はないか?」
「それはこっちの台詞だ馬鹿! お前、何やってる」
自分が―――彼もだが、レプリロイドだから良かったものの、人間だったら確実に火傷を負っていただろう。
エックスのアーマー表面が異常な加熱状態にある。まるで、炎の中で炙られてでもいたかのように。
「……取り残された子がいたんだ」
眉をひそめたゼロに、言い訳がましくエックスがつぶやく。
掴まれた腕に視線を落とし、気の抜けたような声だけが、届けられた。
「人間だったから……助けられなかった」
そう言えば、火災の起こった地区が近かった、と、ゼロは思い出す。
炎の中に単身飛び込んでいく姿が目に見えるようだった。
「バカが……人間が助かる温度かどうかぐらい、お前になら解っただろうが」
「ああ……けど……」
言いよどむエックスにため息をついて、ゼロは掴んだ腕を引っ張った。
とにかく表面を冷却しなければならないし、場合によっては内部も損傷しているだろう。早急にメンテナンスをする必要がある。
「ったく、お前は」
「すまない、ゼロ」
「謝るくらいなら、すんな」
「―――そう、出来たら良いのにな」
いっそ儚げとすら言える声に、エックスに対してではない苛立ちが募る。
誰よりも早くに生まれ、経験を積み、誰よりも強いはずの彼は、同時に誰よりもやさしい。
そう造った過去の科学者を、張り飛ばしてやりたいとすら、ゼロは思う。よくもこんな余計な設計を施してくれた、と。
他のレプリロイドなら冷静に判断を下し、切り捨てられるような場面ですら、彼は悩む。悩み、迷い、挙げ句には無茶な真似をする。
とてもではないが、見ていられない。
「……二度と、火ン中に飛び込んだりするな」
「だが……」
「エックス」
「……気を、つける」
しょげたように肩を落とすエックスをメンテナンスルームに放り込んで、ゼロは怒った顔のまま、踵を返した。
一瞬、物言いたげな視線を感じたけれど、それは無視した。
でないと、彼のせいではないと解っていても……責めてしまいそうで。
閉じた扉に背を預け、少しずつ冷えていく、エックスの腕を掴んでいた指を眺めて誰にともなく、一人ごちる。
「―――クソが」
扉の向こうに消えた赤いアーマーと金色の髪を思い、誰もいない部屋で、エックスはひとり、語りかける。
「だって―――炎は、お前の色に似てるんだ」
だから。
その手で引き戻されなければ、たとえどれだけ炙られようとも。
そこに人間が抱かれているなんて許せるはずもないし、自分こそが抱かれていたいと、思わずにはいられないのに。
作品名:ロックマンシリーズ詰め合わせ 作家名:物体もじ。