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物体もじ。
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ロックマンシリーズ詰め合わせ

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10/ドクター (ロックマンX・エックス)



 実のところ、パブロフの犬よろしい条件反射で、手が出そうになっている。



「おはようございます」

「ああ、おはよう」



 見事な禿頭は確かに違いだけれど、その長い白髭は同じだし、何より、身に纏う白衣を見れば、イメージが被ってしまうのも仕方のないことだろう。

 それこそ自分は人間ではない。人間よりも遥かに高い精度で固体識別は可能だ。ただし、それは人間よりも遥かに融通の利かない、厳然たるカテゴライズの結果でしかない。


 雰囲気とか、そういったものは、本来は自分は感じることがない。そう言ってしまえる。


 だから、ほんの少しだけ……精度を鈍らせてしまえば、そう。

 誤認、してしまえるのじゃないかと、思う。


 だって、似ているのだ。だって、同じ特徴をいくつか備えているのだ。

 だって、恐らく同じ種類の人間なのだから。



「今日はどうしましょうか、Dr.ケイン」

「そうだな……駆動系のチェックをさせてもらいたいんだが」

「了解しました」



 恐らく、彼は想定もしていないだろう。アシモフの原則という聖典を信奉する科学という名の宗教の信者。


 そんな、大昔に提唱されたものが、本当に守られると思っている、無邪気な狂信者。

 彼は、気づかないのだろうか。自分に与えられた特殊な構造。それがもたらす、恐るべき可能性に、思い至りはしないのだろうか。


 いや、そもそも。

 そんな、ロボットが「従順なる被造物」であった時代の原則が、今さら何の役に立つというのだろうか。


 未知という名を与えられた自分、そしてその自分を元に設計されたレプリロイドたち。

 そのすべてが、いつまでも被造物として造物主に従順であると、どうして信じ込めるのだろうか。



「……最初に、俺は確認した」



 言われるがまま、従順にメンテナンスベッドに横たわりながら、エックスは呟く。機材を操作する人間との距離や室内の空気の様々な情報を調べ、届かないギリギリの大きさの声で。



『―――俺を、起こしたのですね。Dr.のメッセージについては?』



 そう、確かめた。自分を起こすこと。自分を研究すること。自分を発展させること。

 すべての危険性を理解しているか、問いかけた。


 だから、すべては、人間自身が選んだことだ。



 難しいことではないはずだ、人間には。ほんの少し、想像を働かせれば、それで済む話。


 「悩む」という機能を与えられたロボット、そのロボットに教えられた、「被造物」としての原則。

 危険性を示唆したメッセージと、与えられた「未知数」の名。


 そこに、何を感じ取るのか、など。電子の流れを制御するよりも、まだ容易い。



「たまらないんです、ドクター」



 100年前。きっと自分は悩んでいた。今も、そうかもしれない。

 けれど眠る間にか、それとも目覚めてから覚えた予感のためか、もう動かせないくらいに固まってしまった感情がある。


 そう、まるで、そう定められたかのように、ある記号に向かうひとつの衝動。



「俺は、あなたたちを。滅ぼしたくて、たまらない」



 自分たちを造り上げた、科学者たち。



 それら、すべてを。そう。








 そう、原則として刷り込まれでもしたように。