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ふざけんなぁ!! 7

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静雄は案の定、死屍累々と横たわる暴走族の群れの中、折れてベコベコにポールが曲がった標識を杖にし、うな垂れて佇んでいた。
グラウンドのあちらこちらで炎上するバイクも数十台あって、ガソリン特有の黒煙もくもくの赤い火がおぞましい。
体に悪そうな煙をなるべく吸い込まないように、帝人は息を止め、まっしぐらに背中から静雄の腰にしがみついた。

「静雄さん、ああ、やっと会えた♪」
「……ゴメン帝人。面談、もう終わっちまったよな?……」

ガソリンと血で汚れた臭い青色スーツに顔を埋めたまま、帝人はふるふると何度も首を横に振る。
「私、静雄さんが来ようとしてくれただけで嬉しいんです」
『今回も、貴方は悪くないんです。臨也さんに嵌められただけんです』なんて、口が裂けても言えなくて。

それに臨也に帝人が多大な恩恵を受けた事、三者面談まで出し抜かれたなんて、言ったが最後、まだ近くにいるだろう彼を追いかけて駆け出してしまいそうで。
鉢合わせして大喧嘩になって学校を破壊されるのも嫌だった。
だからどうやってこの落ち込んでいる人の気分を変えようかと、眉間に皺をよせた正にその時。



《………みぃぃぃかぁぁぁぁどぉぉぉぉ、すきだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!……》

「ふえっ!! 今の静雄さんの声……ですよね!!」
びっくりして何処何処!? と、きょときょと首を振りたくる。

《………みぃぃぃかぁぁぁぁどぉぉぉぉ、すきだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!……あほーあほーあほー……》


再び聞こえた声の末尾で、……犯人の見当がつき空を眺めると、漆黒のカラスがあほーあほーと喚きつつ、真っ青な気持ちの良い初夏の大空を飛んでいる。
哀れ静雄は、かぁぁぁぁぁぁぁっと、ますます顔が真っ赤に染まってしまった。

「コロスコロスコロスコロス、あのカラス、いつもいつも茶化しやがって、絶対ブッコロス……」

(ああ、あの鳥、静雄さんの物真似の常習犯なんだ)
理解した途端、思わず噴出していた。

「笑うんじゃねぇ!!」
「静雄さん、あの、今、メッチャ可愛いです♪」
「うるせぇ!! これ以上笑ったら、いくらお前でも、アイアンクローをぶちかますからな!!」
「どうしましょう。……私、恥ずかしいけどやっぱり嬉しいです♪……」
「……ああ?……」
「もう、静雄さん大好き♪ カラスさんにも感謝♪♪♪」
「お、おい。お前、頭大丈夫か?」 
「だって、鳥さんが物真似するぐらい覚えてくれるなんて。きっと沢山私が好きだって、空に向かって叫んでくれたんですよね♪♪」
「お、おう」
「嬉しい♪♪ 静雄さん、大好き♪♪ お礼に、甘い物食べにいきませんか? カキ氷奢ります♪♪」
「俺が出す!! 高校生のガキに払わせるなんざ、俺のプライドが許さねぇ!!」
「……それじゃお礼にならないんじゃ……」
「いいんだ、いくぞ!!」

真っ赤な顔した静雄が一人でずんずん歩き出すと、脆い校庭のコンクリート階段にヒビが入ったし。
くすくす笑いながら追いかけて、彼の手を取り、指を絡めて恋人繋ぎをしてみた。

びっくりし、立ち止まり帝人を見下ろす彼に、にっこり上目遣いで見上げ。
「ね、いいですよね? 憧れだったんです♪♪」
確信犯で可愛く見えるようにおねだりすると、彼は真っ赤な顔のままコクコク無言で頷いて。
彼の長い足の歩調が、帝人の遅いテンポと同じになってくれて、とっても嬉しかった。




あの後、彼に引っ張っていかれたのは、池袋でも結構有名なスイートパーラーだった。




ズタボロに泥と返り血で汚れた青いスーツ姿の男が入った途端、店内のウエイトレスさん達に緊張が走った。
強盗と勘違いされたのかもれない。
だが「平和島静雄だ」と名乗った途端、ますます青ざめたチーフらしきウエイターが、二人を見晴らしの良い窓際の予約席に通してくれた。
池袋の魔人に、ドレスコードは無いらしい。
直ぐに臨也と食べた時よりも、10センチも大きなビックフルーツパフェが運ばれてきた。


「うわぁぁぁ、これ、携帯の池袋の情報サイトに載ってました♪♪ 予約しないと食べられない奴ですよね♪♪」
確かパーティー用でお値段なんと4500円。
極貧高校生の帝人にとって、特別な日で、しかも正臣と杏里を巻き込まなければ、けっして手が届かない筈の代物だった。

「……以前買ったガイドブックに載っててな。お前も俺も、甘いの好きだし……」
「凄い凄い、美味しそう♪」

帝人は知らなかったが、それは静雄がかつて映画監督バリに、ロマンチックな告白を演出しようと頑張っていた頃、買い集めた参考資料からチョイスした物だった。
今日やっと日の目を見て、静雄自身も何となくだが、本を貪り読んだ努力が報われたような気がした。

「はい、静雄さん、あーんして♪」

銀の柄の長いスプーンを握った途端、まず一口目と、さくらんぼ付ソフトクリーム部分を大きく掬って静雄に差し出すと、テレ屋で可愛い彼は、早速顔をほんのり赤くさせた。
けれど、ムードをぶち壊す愚は犯さず、素直に無言で大きな口を開けてくれる。

むぐむぐと口を動かす彼を見ていると、猛獣に餌付けしているようで楽しくなった。
今度はたった一個しかないマスクメロンを、フォークでブッ刺し、にこにこと彼に差し出してみる。

「はい、あーんです♪」
「……お前こそ口開けろよ……」

今度は静雄の方が先に、ぶっきらぼうだけどスプーンにチョコとアイスを掬って食べさせてくれる。

「………美味しい♪♪……」
しっとり濃厚なチョコレート味を、舌に転がして楽しむ。
自宅じゃ絶対作り出せない高品質な素材を噛み締め、うっとり堪能する。

「そっか、もっと喰え、どんどんいけ♪♪」
「静雄さんこそ、はいあーん♪」
「いい、一人で食える」
「でも、あーん♪♪」
「しつけぇ」
「それとも、口移しがいいですか?」

ポッキーの端を口に咥え、『反対側から齧って齧って♪』と上目遣いで訴えてみれば、静雄の顔が見る見る茹蛸になり、面白い。

「か、からかってんじゃねーよ!! そういうことは………、家に帰ってから……、その、二人っきりの時に、………しろ……、な……」

ばしっと断る割に、未練たっぷりのヘタレた静雄だった。
くすくす笑って、スプーンをもう一度差し出せば、今度はぱくりと素直に喰らいついてくれて、帝人も静雄が差し出してくれる匙を、遠慮なく口に咥えた。

そんなやり取りも数回繰り返せば、お互いに食べさせあうのに直ぐに慣れ、また大きすぎるパフェは、悠長に食べていては溶けてしまう。
静雄とじゃれあってて数分後、帝人はガラスの器の淵に、液体化したイチゴアイスが流れ落ちてテーブルを汚しだした事に気がついた。

「静雄さん、其処急いで食べて!!」
「お、おう!!…… 帝人、そっちの下、バニラチョコチップの部分がやべぇ」
「ふぎゃあ!! ピーチシャーベットも終わってる!!」

二人、急いで溶けかかった大きな部分を口一杯にどんどん頬張ったが、冷たいものを沢山急いで食べれば、頭が痛くなるもので。

「うみゃみゃみゃみゃ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!! マジいてぇ!!」

同時に頭を抱え、結果仲良く二人でテーブルに突っ伏し、ゴロゴロと懐く羽目にもなった。
作品名:ふざけんなぁ!! 7 作家名:みかる