ふざけんなぁ!! 7
《おお、帝人ぉぉぉぉ、元気かぁぁぁ?》
母の物凄いブーイングは無視するとして、祖母の優しいほんわか声が懐かしい。
「えへへ、お婆ちゃん達こそ夏ばてしてない? ゴーヤを一杯食べて、暑さなんてノックダウンしてね」
《あんた、何時帰って来る? お爺ちゃんもなぁ凄く寂しがっとるし》
「本当? 嬉しいなぁ♪ 夏休みは七月二十一日からだけど、正臣の紹介で短期アルバイトするかもしれないから、まだ予定は立ててないの」
嘘である。夏休みにバイトの予定なんて全くない。
本当は静雄にうっかりつけられるであろう青痣や打ち身を、家族に見せたくないからで、今後暫く静雄のしかけるスキンシップを上手にかわし、包帯やシップが綺麗に取れるタイミングを見計らって帰郷するつもりだ。
「でもね、お盆前に絶対戻るから。一緒に縁側でお祭りの打ち上げ花火を見ようね♪」
《帝人、あんたのスケジュールなんてどうでもいいから、さっさと幽平クンに代わりなさい!!》
帝人は大きく溜息をついた。
(母よ、お願いだから、これ以上恥を晒さないで)
第一あんまり騒々しくすると、静雄が切れるかもしれない。
折角自己嫌悪のドツボに嵌っていた彼を浮上させたのに、機嫌がまた悪くなるのは勘弁だった。
おそるおそる静雄の顔を上目遣いで伺うと、彼は帝人の母の異常なテンションの高さに、びっくり目になって固まっている。
「大体、直電話なんて一体何の用? 私にメールでいいじゃない」
《三者面談の結果を聞こうと思ったのよ。そうしたら失踪中って噂の幽平クンが出てくるじゃない。こんな風に会話できるなんてもう信じられなくて。お母さんそっちに遊びに行こうかしら♪》
ぴきぴきと、こめかみ部分が痙攣しているのが、自分でも判る。
「あはははははぁ♪♪ きやがったら宿泊料一泊100万取るからね♪♪」
帝人はいい笑顔で即答した。
《何その金額!! ぼったくりじゃない!!》
「やかましい。他所様のお宅でこれ以上恥を晒すな」
長距離な電話代も勿体無いし、ミーハーな母に、これ以上無駄話に付き合う気もない。
「面談は全く問題なかった。以上。じゃあねお婆ちゃん。お爺ちゃんとお父さんに、くれぐれも宜しくね♪」
そう最後に優しく締めくくり、問答無用で受話器を置く。
そして念には念を入れ、壁の電話線も引っこ抜く。
ざまぁみろ。
これで電話は繋がるまい。
「さぁ私、お吸い物作って来ますね。それともお寿司ですし、緑茶の方がいいですか?」
にこにこ振り返って尋ねると、幽と静雄の二人が直立不動のまま、揃って同じ角度で小首を傾げた。
あれ? 皇帝ペンギンの真似?
帝人もこくりと同じように小首を傾げてみる。
「えっと、面白くて不思議な家族……、だね? それに帝人って、あれが素なんだ」
「ふえ?」
「お前って意外と気が強いんだな。ちょっと俺、びっくりした」
確かに今まで装っていた、従順で可愛らしいイメージにそぐわない。
油断した!! っと悟ったけど、もう後の祭で。
帝人もみるみる青くなった。
「嫌、俺の嫁さんになるんなら、大人しいより多少気が強い方がいいから♪♪ な?」
「そうだよ帝人。ムカついたとき、兄さんの事を飛び蹴りできるぐらいでないと、多分やっていけないよ。ちょっと試してみたら?」
「よし、来い」
「何気に死亡フラグを立てないでくださぁぁぁぁい!!」
作品名:ふざけんなぁ!! 7 作家名:みかる