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永遠に失われしもの 第11章

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「気がつきましたか?」


 ウィルは自分のデスサイズである、
 長い棒の先についた鋏状の刃を器用に使って
 シエルの顔を向けさせる。


「こ・・ここ・・は?」


「貴方は別に知らなくて構いません」


 シエルは、腹に鈍い
 痛みが残っているのを感じた。

 手や足にはめられた枷は妙に重く、
 そして柔らかい肌に食い込んで、
 痛みを与えている。


「何故・・僕に・・こんな真似をッ!!
 殺りたいのなら、さっさと・・
 殺ればいいッ」


 シエルは青かったその目を、
 赤銅のように紅くして、
 自分の前に立つウィルとグレルを
 睨みつけた。

 ウィルはデスサイズの刃をシエルの顎から
 外して、自分の眼鏡をあげ、言った。


「その瞳・・
 まるで犬に噛まれて、
 狂犬病を伝染された飼い主みたいだ。

 しかし・・

 その忌まわしい瞳の割に、あなたからは
 害獣の不快な気配を感じません。

 まだ、人の魂を喰ったことが
 ないんですね。

 アレよりは格段マシですが、
 貴方もそのうちどうせ
 同じ事をするでしょう。

 ですが・・
 貴方にはまだ
 排除命令は出されておりません。
 事が済んだら、開放しましょう。

・・・

 さぁ、貴方の飼い犬を呼びなさい。」


「何だと?」


 必死に起き上がろうとするシエルだが、
 どうにも枷が重くて、身動きもとれない。


「あの穢れた名前を呼びなさい。
 セバスチャン・ミカエリスと!」


 床に頭をつけたまま、シエルはくっくっと
 笑い始めた。


「何が可笑しいんですか?」

 
 しばらく笑い続けて、次第に笑うのにも
 疲れた様に、笑い声が止んだ後、
 シエルは、言った。


「貴様、僕が命令されて
 その通りにするとでも??」


「貴方にとっても、
 その瞳の契約印の束縛から解放される。
 あの悪魔に執着することもなくなる筈だ。

 人間ときちんと契約して
 魂を獲るのでしたら、
 私たちは干渉しませんよ。」


 セバスチャンから解放される・・
 それは人間であったときの
 またもう一つの夢・・

 それは僕の目的が果たされないということ
 それは僕の悪夢・・

 そして今となっては・・

 セバスチャンを永遠に失う?・・
 あり得ない・・
 あってはならない・・
 でも何故?・・
 何故僕はそう考えるのか。

 僕の生を僕の手で終わらせる
 そのときまで、
 僕を正気で居続けさせるために
 僕の最後の理性を残すために必要だから?

 いや、違う。
 僕はあの魂を喰らいたいのだ。
 あいつと同じように。
 
 そして喰らえないのだ。
 永遠に。

 だったら終わらせればいい・・・
 本当に??


「そろそろ薬も利いて来たみたいですね」

「なによ、ウィル、
 このガキに薬打っといたわけ?」

「ええ、彼がセバスチャン・ミカエリスを
 自分の意思で呼ぶ展開は無いと
 予想していましたからね」

「それも傾向と対策ってヤツね・・」