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永遠に失われしもの 第11章

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「良いホテルにお泊りですね」


 ナッツィオナーレ通りに面して建つ、
 クイリナーレホテルの客室の窓の
 レースカーテンごしに、
 セバスチャンは外を眺めている。 


「オペラ座にも近い」


 セバスチャンは誰にいうともなく、
 言葉を放っている。


「君はオペラが好きだったのかい?
 知らなかったねぇ...
 この部屋は、法王庁が取ってくれたのさ」


 オリーブ色の刺繍の施された、
 一人掛け用の椅子の背にもたれ、
 肘掛に肘をついて、
 長い爪を顔の横にあてながら、
 葬儀屋は話しかけた。


「なるほど--エット-レ卿の葬儀で
 イタリアにいらしていたのですね」


「ああ、君にもみせたかったよ。

 小生がどれだけ
 彼の死体を綺麗にしてあげたか...

 まぁ、言いようによっちゃ、
 執事君の後始末ってところかねぇ...

 見事だったよ...
 血の飛び方も、残酷さも..

 君は相当怒っていたようだねぇ..
 必要以上に楽しんで嬲り殺して..」


 ニヤニヤと笑う葬儀屋を見つめながら、
 セバスチャンは微笑して言った。


「ふふふ、そうだったかも知れませんね。
 もう忘れました」


 葬儀屋は袖から変な形のクッキーの
 入ったつぼをだし、
 またバリバリと食べ始めている。
 その様子をセバスチャンは、ちらりと
 横目で一瞥した。


「クッキーを食べた手で、
 ぼっちゃんの服を触ってはいけませんよ。
 おかげで匂いがついてしまいました」


「ヒッヒッヒ...そうだったねぇ」


「紅茶をお入れしましょう」


 セバスチャンは部屋の中の、
 ティーセットのおいてある
 ロココ調の華美なサイドテーブルに
 近づいて、用意を始める。

 手馴れた手つきで、
 ティーポットを高く持ち上げ、紅茶を
 カップに注ぎ込み、葬儀屋に差し出した。


 葬儀屋は出されたティーカップに
 口をつけ、またクッキーを食べている。
 
 しばらくお互い沈黙していた末に、
 セバスチャンが切り出した。


「ところで、ぼっちゃんの行方--」


「君はただ待ってなくちゃならない。
 伯爵が、君の名を呼び、君を呼ぶのをね。

 伯爵が呼ばない限り、
 君からたどり着けは...しない所さ。」


 --この男が知っているのだから、
 大方、死神がてぐすねひいて、
 主を餌に自分を狩ろうとしているのは、
 見当がつく--
 

「そして恐らく伯爵は
 君を絶対に呼ばないだろうねぇ...」


「では--
 貴方なら私をそこに導けるのでは?」


「何で、執事君は、
 伯爵を探しにいくんだい?

 彼は来いと命令していないのに...
 それに心配しなくても、
 伯爵の生には影響はないよ...」


「それでも、執事とは
 主のそばを
 離れてはならないものだからです。」


「ふぅ~ん...執事の美学だねぇ...
 ところで伯爵は何故、聖ベテルギウスの
 魂のことについて調べているんだい?」


「ぼっちゃんは、魔剣クラウ・ソナスを
 探しているのです」


「ふぅん...実に面白いねぇ...君たちは!」


 葬儀屋は満足そうに笑いながら、
 クッキーを食べ続けた。