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こらぼでほすと 漢方薬1

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 坊主たちを寺へ送ると、歌姫様の本宅に向う。そちらでは、ヘリがスタンバイしていて、ハイネが運転手で待機していた。

「珍しい組み合わせだなあ。」

「そうですね、僕らが、別荘に行くのは、久しぶりですよ、ハイネ。」

「揺らさないように頼むぜ、運転手。」

 そして、いつもなら陽気に挨拶するはずのニールは無言で手を振るだけだ。おや? と、ハイネが、そのニールの顔を覗き込む。

「どうしたよ? 愛しのママニャン。」

「・・・・なんかフラフラすんだ・・・」

「はあ? 」

 確かに、顔が赤いような気がする。おい、と、悟浄に視線を投げると、こちらは陽気にニールの肩を支えている。

「だんだん効いてるとこなんだ。だから、さっさと安全運転で頼むぜ。」

 なるほど、と、ハイネもヘリの準備をする。すでに、漢方薬治療なるものが始まっているらしい。

「東洋医学のクスリっていうのは、初めてだぞ。」

「まあなあ、おまえらんとこで、そんな悠長なことしてないだろうさ。」

「ニールの場合は、免疫力やら体力不足なところを補強するっていう意味では有効なんですよ。」

 エンジンをかけて機体を暖めると、ハイネは先に乗り込む。毎日のように操っている機体だから、チェックも慣れたものだ。オッケーと、搭乗許可を出すと、三人も乗り込む。ただいま、ラボは、鷹とハイネが留守を預かっている。キラとラクスがエターナルでプラントに遠征したので、こちらに残っているのが、ラボのほうを担当している。たまに、シンとレイも手伝っている。

「十日もかかるってーのが驚きだぞ? 八戒。」

 ゆっくりとヘリを浮上させつつ、ハイネは怒鳴る。さすがに、普通の声では聞こえない。ドクターから、別荘とラボの医務室を使うという連絡は入っている。最初の十日は、八戒が使うと言われて驚いた。

「それでも、漢方薬としては即効性なんですよ? ハイネ。」

 漢方薬なるものが、この世にあることも、ハイネはほとんど知らなかったので、多少、聞いてから知識は拾ったが、よくわからないというのが、正直なところだ。化学療法とは違うアプローチだというのは、理解したが、それが、草や木の根、木の皮なんてものから作られる薬だというのだから、プラント生まれのプラント育ちのハイネには、それ効能ってどーなの? ということになる。

 たまに、ニールが飲まされている、あのオドロオドロしい液体だって回復してんだか、どうなのかよくわからない。二日酔いのクスリは、確か効いているような気はするが、それも化学的なクスリのほうが早く作用するとは思うのだ。



 ・・・・まあ、三蔵さんが本山から持ってきたってーんだから、かなり強力なんだろーけと゜さ。お手並み拝見といくさ。・・・・・・



 このままだと、クスリを増やすことになると、ドクターからも言われている。それが、先に引き延ばせる効果があるなら、ハイネも拍手喝采だ。ニールが飲んでいるクスリは、量を増やしていけば、やがて効果が薄れる代物だからだるできるだけ増量は引き延ばしたい。



 とりあえず、ラボの医療ルームへニールは運び込んだ。すでに、発熱が始まっていて、ぐったりしている。とはいうものの、これは解熱はできないので耐えてもらうしかない。脇や太腿あたりに保冷剤を挟み、頭にはアイスノンだ。一応、バイタルサインを確認する器具は取り付けたが、クスリ関係は、一切、化学的なものは使わないことは、最初から説明している。

「まだ、これから熱は上がります。覚悟してください。」

 そう言われたって、ニールにはできることはない。うーんうーんと寝返りを打つぐせいが関の山だ。

「これじゃあ、晩飯は無理だろ? 」

「いえ、三分粥を飲ませて、丸薬を飲ませます。悟浄、別荘のほうへ頼んでください。」

 何も入っていない胃に、あの丸薬はきつい。だから、とりあえず、少しでも胃に納めさせるつもりだ。で、ふと気付くのだが、確かに情報料にクスリを寄越せ、と、言ったのは八戒ではあるのだが、本来、この治療をやるのは坊主のほうじゃないか? とは思う。自分の女房なのだから、おまえが治療の手伝いをやれ、と、言いたい。だが、まあ、付き合いが長いので、坊主の性格も、本山の上司連中の考えも、丸判りなので、しょうがないとは思う。

 確実に、坊主だと、丸薬10粒を一気飲みさせて仮死状態にさせてしまうだろうからだ。それから、慌てて蘇生させたり手当てしたるするのは、やはり八戒なわけで、それなら、おまえが最初から治療したほうが楽だろ? という声が本山のほうから聞こえてくる気がする。だから、わざわざ取り扱い説明書が、八戒に送られてきた。

「今夜が最初の山だな? 」

「40度を越えたら、こっちの解熱薬を使います。明日の午後くらいには下がると思うんですけどね。」

 人間の発熱の限界は42度と言われている。そこまでは発熱は上げないようにコントロールする。ただし、下げすぎても意味がなくなる。この発熱で、体内の細胞を活性化するために、細胞自体の作り直しをしているからだ。そして、この発熱が収まって、そこから三日は昏睡する。その間が、細胞がゆっくりと強化されるための時間だ。意識が戻ったら、そこからは体内に染み渡ったクスリを補助するためのクスリや栄養の補給をして、身体が、その状態に馴染んだらドクターに検査してもらう。ドクターに引き渡すまで、化学療法のクスリは一切使わないし、看病するのも、悟浄と八戒の仕事ということになっている。

「適当に、おまえは休め。」

「お互い様ですよ、悟浄。」

「これ終わったら、温泉な? 」

「はいはい、それはもう大賛成ですね。いいとこ探してください。」

 最初の五日間は、誰にも任せられないので、とりあえず、沙・猪家夫夫で乗り切るしかない。まあ、漢方薬治療だから、気分的には楽ではある。内臓はみ出してたり、全身骨折してたり、出血多量でぐったりしてるのよりは、ずーっとマシだ。

「適当に気功波もあてておきます。」

「無理しない程度にな。てか、これなら楽勝? 」

「楽勝ですよ。血だらけの死にかけを生き返らすのに比べれば、ほんと笑っちゃうくらいです。」

「そうだよなあ。おまえもかなりヤバかったしな。あれに比べたら、優雅だわな。」

 過去のことを思い浮かべて、ふたりして苦笑する。ほんと、どれだけ酷い修羅場を潜ってんだか、と、笑うしかない。だからこそ、かなりのことでも動じなくなった。あんなことは、もう滅多に起こらないだろう。

「悟浄、しばらく、仮眠室で横になっててください。」

「追い出して、ママニャンと何する気だよ? 」

「そうですねー何かできるのんですかねー。」

「俺のことはいいって。俺はフォローなんだからさ。まあ、癒しぐらいにはなるし? 」

 ちゅっと、悟浄は、八戒の耳の辺りにキスをする。そこには、耳環がある。これを外すほどの相手は、もういないだろう。

「それ、逆に疲れさせることになりそうな気がしますけど? 」

「そういうのが、ご希望なら、五日後に? 」

「はいはい、お付き合いしていただくための報酬ってことでいいですか? 」
作品名:こらぼでほすと 漢方薬1 作家名:篠義