こらぼでほすと 漢方薬1
で、ここで引き下がらないのが、間男だ。レイより先行して、別荘のほうの部屋の準備に出て行った。ハイネは、鷹と、これから交代だから、それだけで退散するつもりだ。
ニールが、医療ルームから運び出されると、八戒は、ふうと息を吐き出した。これから使う予定の薬は、すでに、ニールの部屋の冷蔵庫に収めてあるし、看護士にも使用方法は説明してある。
「なんとか、僕らのミッションも終りました。」
「とりあえず、アテはあるから昼酒楽しんで、寝るとしようぜ。」
八戒のリクエストしたおつまみセットを手にして、悟浄が声をかける。ここからは、当人次第だ。手助けも、クスリを飲ませるぐらいだから、監視する必要はない。
「そうですね。ま、これで、秋に来る誰かさんたちの相手もしてくれるでしょう。」
「あーそうだったな。約一名の言動が、俺は非常に心配だがな。三蔵が、マグナムでヒットさせないかがさ。」
「それなら、その約一名の相方さんが止めてくれますよ。悟空もいますしね。」
「そう願いたいぜ。下手すると、俺らまで標的だ。」
だらだらとした空気を纏いつかせて、別荘へと上がる。いつも使っている二階の部屋は、きちんと準備されていて、軽い食事や酒もセッティングしてある。別荘のスタッフも心得たものだ。とりあえず、飲むか、と、セッティングされたテーブルに座り、冷やされた白ワインを乾杯する。
「今夜の予約って、僕でしたっけ? 」
「ああ、おまえの客が二組だった。」
「じゃあ、明日ですね。」
「つれないな。夜まで寝る時間も、たっぷりあるのに。」
「簡単に終ってくれますか? 」
「んーこのままメシ食って、やるっていうなら簡単コースだな。俺も、さすがに眠いよ。」
徹夜続きに、店の仕事に、と、かなりのハードワークだ。フォローの悟浄のほうが、八戒より寝ていない。
「じゃあ、それでお願いします。」
「はいはい、お願いされます。」
とりあえず、腹を満たしてから、と、悟浄は、食事に手をつける。食欲の後に性欲で、睡眠欲っていうのは、基本なんでしょうかね、と、八戒も、ワインを飲む。
沙・猪家夫夫と、鷹が夕刻に店へ出勤した。残りは、ハイネとシン、レイだが、レイは、ニールの傍に張り付いている。看護士が午後から来てくれたので、実務のほうは担当してくれているので、レイは、もっぱら話し相手やトイレなんかの移動の介助をしているだけだ。
「レイ、ちょうどいいから、世界遺産でも見ようぜ。」
「わかりました。じゃあ、選んできます。」
以前から、世界遺産の映像をレイの解説付で見たいと、ニールは言っていたのだが、なかなかゆっくり見る暇がなかった。少し見たが、世界遺産の映像はかなりあるので、全部クリアーするには時間がかかる。これといって用事もないし、動けるほどではないから、こういう時に、と、ニールは頼んだ。
・・・・そろそろ、キラたちは戻るのかな・・・・
そんなことを考えて、ニールのほうは窓へ歩み寄った。朝のうちは、ふらふらしていたが、それもかなり解消された。元気になったか? と、言われたら、さあ、どうでしょう? ではあるが。これなら、明日くらいにはしゃんとしていそうだ、と、息を吐く。漢方薬治療なんてものが、効くのかどうかは知らないが、以前より楽になっていることを祈りたい。すでに、日は暮れて、裏庭は真っ暗な状態だ。まだまだ暑いから、外はむっとしているだろうが、ここは空調が効いていて、ちょうどいい塩梅で、ニールは、その暗くなった外を見ている。
どどーんっっ
激しい音と別荘自体を揺らす振動が突然起こった。揺れは、それほどではないが、ズシンと地面から揺れるような勢いだ。何事だ、と、ニールが廊下側の窓へと走った。音の加減からして、あちらだと思われたからだ。
扉を開けて、そこに見えたのは、大きな物体が火を纏いつかせている姿だ。
「いっっ? 」
誰かのMSが着陸に失敗したのか、と、考えて、足が勝手にラボに走っていた。今、別荘に残っているのは、シン、レイ、ハイネと、ラボの整備関係者だ。その中で、この状態になり得るのは、シンかハイネということになる。朝まで歩くのも億劫だったはすだが、なんとか走れているのが不思議な状態だ。
そして、生体認証が運良く、ニールのものも使える状態だったから、別荘からラボへ下るエレベーターも使えた。いつもは、生体認証の登録を外されていて、勝手に出入りできないのだが、医療ルームで治療を受けていたからのことらしい。管制室に走りこんだら、シンとハイネが慌てているところだった。
「シンッッ。」
よかった、と、シンを背後から抱き締めたら、当人が飛び上がるほど驚いた。ぴゃっっとおかしな声をあげて、背後の顔に、さらにびっくりしていた。
「なっっ、ねーさんっっ? 」
「おまえ、何やってんだよっっ、ママニャン。」
もちろん、ハイネも驚く。寝ているとばかり思っていたのが、レイより先に飛び込んできたからだ。
「あれ、誰だ? 」
と、映像が映し出されているパネルを見て、愕然とした。それは、エクシアだったからだ。
「なっっ、刹那? おいっっ、刹那は無事なのか? 早く、消火っっ。」
庭の木に燃え移った火は、エクシア自体も取り囲んで燃えている。まだ消火活動には到っていない。その明かりで、エクシアが浮かび上がっている状態だ。
「レイッッ、ママニャンなら、ここだ。戻れっっ。シン、さっさとキラを呼び出せっっ。悪い、マードック、ストライクとルージュスタンバイっっ。後、消火できそうなら、なんとかしてくれ。」
わあーわあーと喚いているニールは無視して、ハイネが指示を出す。消火するにしても、あのエクシアの容量では、MSが必要だ。まずは、中の確認と、相手を呼び出す。追っ手に追われているなら、どうにかしないとならないし、各地のレーダーサイトに察知されているなら、それも消さなければならない。時間との勝負だから、ニールに構っていられない。
「おまえじゃなくてよかった。」
「でも、中身、刹那だぜ? ねーさん。」
「あれなら問題ない。エクシアは大気圏降下ができるから、ただの火事ぐらいじゃ蒸し焼きにもならないよ。」
「俺のもそうだよ。バカッッ、俺のことなんていいから、部屋に帰れっっ。バカ姉。」
まだ、背後からへばりついたままのニールの言葉に、シンが泣きそうになって怒鳴る。心配してくれていたのが、よくわかったからだ。まずは、キラに連絡をとって、レーダーサイトの映像を消してもらわなければならない。シンたちも、コーディネーターで、ナチュラルな人間よりは、システムの扱いに長けているが、これはできそうもないのだ。日々、いろんな犯罪行為を遊んでいる大明神様だけが持っているテクニックだ。
そこへ、レイが駆け込んできた。しかし、声をかけている暇はない。ハイネに命じられて、そのままドックへ走る。まずは、状況確認と、消火だ。
「せつニャンッッ、いい加減に応答しろ。」
作品名:こらぼでほすと 漢方薬1 作家名:篠義