こらぼでほすと 漢方薬2
「わかりました。ファクトリーの受け入れ態勢は、明日の朝までには完了するそうですから、時間的にはばっちりですね。」
エクシアだけで移動できないことはないが、それだとレーダーサイトを通過する時に、エクシアもチェックされる。だから、鷹がフリーダムでエクシアを抱え込んで海中を運ぶということになった。それだと、フリーダムだと誤認させられるからだ。そうなると、最高速は出せないから、到着は、明日の朝ということになる。ファクトリー周辺のレーダーサイトについては、ファクトリーのほうで誤魔化してくれるように手配が着いた。こちらにも、キラの手が入っている様子だ。
「無理はするな。それと、せつニャンに声かけてやれ。なんか落ち込んで、怖いことになってるぞ?」
エクシアのコクピットから、刹那は降りてこない。全走査も終ったし、休憩してもいいのだが、おかんに怒鳴られたのが堪えたのか、出て来ないのだ。食事も、いらないと突っぱねている。
しょうがないな、と、ニールがボイスオンリーで、エクシアのコクピットと通信を繋げる。ずっと、ボイスオンリーなのには訳がある。この治療で痩せているので、刹那が気付いて心配するからだ。
「刹那、降りて来い。」
「あんたが迎えに来るか? 」
「無理。今、忙しい。」
「なぜ、働いている? 」
「別荘に遊びに来てたんだよ。そしたら、おまえが無茶やるから借り出されてるだけだ。普段は、働いてない。」
「本当か? 」
「ほんとだよ。もう少ししたら、オーヴへ移動させるからな。それまでに降りて休憩を取れ。」
「わかった。そちらへ行く。」
「来なくていい。仮眠室で寝転がって・・・」
ゆっくりしろ、と、までは言えなかった。通信は切れたからだ。また汗臭い格好なんだろうなーと考えて、少し鷹に代わってもらって、別荘に着替えを取りに行った。オーヴに行くのだから、着替えは入り用だろう。意外にも身体が軽い。さくさくと足が動く。漢方薬ってすげぇーと、当人が驚くほどだ。部屋に戻って、紙袋に着替えを詰めていたら、乱暴に扉が開いた。
「ニールッッ。」
「おかえり、利かん坊。」
やっぱり、何かしら匂いがしそうな状態だ。人革連の西のほうは砂漠地帯だし、人家も少ない。着替えなんてものは調達できていないのだろう。
「うわぁー風呂入れ。そのまま、ファクトリーに行ったら、相手に迷惑だ。」
どろどろの顔で抱きつかれたら、ニールは苦笑するしかない。しょうがないだろ? 俺が、あそこでおまえを甘やかすわけにはいかないんだから、と、言ったら、わかってる、と、答えて来た。
「下手すりゃ圧壊だぞ? 気をつけろ。」
「すまない。突然に壊れた。」
「不具合があるのに誤魔化してたんだろ? いいから、風呂入れ。臭いぞ、おまえさん。」
引き剥がして、風呂に入れようとしたら、ポケットから刹那は何かを取り出した。
「綺麗だった。これは、玉石という、あっちの石だ。」
「見えたのか? 」
「ああ、綺麗だが誰も居なかった。」
以前、天空の湖というものがあるから、見られるなら観光してこい、と、命じておいた。それを見てきたらしい。ちゃんと、証拠という名のお土産まで運んできた。丸くて、つるつるの白い石が、ニールの手に移る。ちゃんと、その地に下りて、そこで拾ってきたということなのだろう。
「ありがとう。」
「働かせてすまない。今度からは気をつける。」
「いいさ。とりあえず、風呂入れ。なんか食うだろ? 」
「携帯食を食った。」
「そうか。時間はあまりないしな。じゃあ、ちゃんと洗えよ。」
ほれ、と、風呂場に押し込んで、着替えを置く。いつもなら、刹那の顔を見たら気が抜けて身体が重くなるのだが、それもない。冷たいものでも用意してやろう、と、親猫は部屋に戻った。
丑三つ時に、フリーダムがエクシアを背後から包むようにして発進した。用心のため、エクシアにはシールドを巻きつけてある。フリーダム本体も隠蔽皮膜は被っているから、万全の態勢だ。
まだ、レーダーサイトの映像改竄は続いているが、朝までには、どうにかなりそうだ。大きなところは、キラたちが宇宙からやってくれているから、細かなものだけなので、数も減ってきた。庭の整備は、仕事の終った整備の連中が火事の跡形を消している。木の植え替えは朝からになるが、目でわかるような跡だけは消さないと、バレバレだからだ。周囲何キロかは、私有地だから、振動や火事は漏れていないはずだが、日中にヘリを飛ばされれば、多少なりとも判明しそうなので、夜のうちにやっている。
「なんで、ママ? 何してるの? 」
宇宙から、暢気な叱責が飛んで来ているが、ニールはガン無視を決め込んだ。宇宙との秘匿回線を担当しているので、バレたらしい。こちらの進行状況だけ報告すると、すぐに切ってしまう。あちらも、まだ忙しいから、着信することはないだろうが、後が五月蝿いだろうな、と、がっくりする。鷹は、刹那をファクトリーに預けたら、とんぼ返りの予定だが、それでも午後近くにはなるだろう。
刹那のために、全員が、ほぼ徹夜状態というのは、ニールには申し訳ない事態で、とても自分だけ休める状態ではない。眠気覚ましのコーヒーを用意して、シンとレイに出してやる。通信自体は、頻度が下がってきたから、ニールのほうは手隙になる。
ハイネからは、呪いのように、「終ったら休め。」「戻って、そこにいたら襲うからな。」「愛してるから休め。」 という、わけのわからない脅し文句が届くだけだ。現在位置は、人革連の南西部の海溝近くに辿り着いている。あちらも、レーダーサイトのチェックをしているのだろう。そこで、停止している。エターナルからの定期連絡も、各マザーへの侵入終了の報告が並んでいる。全部のチェックが終ったら、再度、全チェックをして、そこで終了だ。ひとつずつ、チェック項目が減っていくのを、横目にしてコーヒーを口にする。そういえば、刺激物禁止って言われてたなーと、その時になって、ようやく思い出した。しばらくは、刺激物はやめてくださいね、と、八戒が注意していた。すでに、その刺激物なコーヒーを何杯飲んだかわからない。今更、お茶に切り替えても無駄だよな、と、考えていたら、別荘のほうから軽食の連絡だ。整備のスタッフたちも、夜通しの作業だから、ニールのほうから頼んだものだ。あちらのスタッフは、エレベーターには乗れない。
「わかりました、すぐに行きます。・・・・夜食取ってくる。」
シンとレイに声をかけて、外へ走り出す。夜中にすいません、と、ニールは謝ったが、ここが臨戦態勢になると、いつものことですから、と、スタッフも慣れたものだった。受け取って、まず、整備スタッフの部屋に届けた。外で働いているのも多数いるが、万が一に備えて、始動できるように、他のMSのスタンバイもしている。
「マードックさん、夜食です。」
「助かった。腹が減ってきたとこだったんだ。」
「すいません、うちのが、えらいのをやらかして。」
作品名:こらぼでほすと 漢方薬2 作家名:篠義