こらぼでほすと 漢方薬2
トダカが危惧したのは、そちらのほうだ。責任者権限なんてものを与えてしまったら、どの情報も閲覧可能だ。組織の現状が判明したら、何がなんでも復帰すると言い出しかねない。シンとレイも、そのことに気付いてなかった。あっと声を出す。
「忘れてた。そういや、秘匿通信を使ってたんだ。」
「迂闊だった。」
秘匿通信は、セキュリティーレベルが最高値のものだ。それが使えるということは、マザーの情報を全部引き出せることを意味している。いつも、シンもレイも何気なく使っていて、そのことを失念していた。たぶん、キラが怒っていたのも、そのことなのだろう。
「キラさんが、拳骨って、そういうことかよ。」
「キラ様が、お気づきだったのなら、今後は、その辺りを考慮してくださるな。」
トダカは、そのことには安堵する。今後、ニールの生体認証で使える部分を、限定してくれれば、そういう問題はなくなる。『吉祥富貴』の弱点は、少数という点だ。二極化して、何かを展開するとなると、人員不足は否めない。エターナルでの作戦というだけなら、MSも整備のスタッフも、エターナルへ集結してできるわけだが、これに地上にも人員が必要な事態となると、圧倒的に不利になる。
先日、鷹とハイネが論じていたのも、この部分だ。地上では、MSは文句なく稼動させられるが、それを移動させるための運用艦がないのだ。
「でも、トダカさん、トダカーズラブの方たちを、こちらで使うわけにはいきませんよ? 」
「別に、ここに来させる必要はない。あちらで、やってくれるように手配する。ラボは、私が留守番するくらいなものだ。」
「シン、レイ、オーヴ軍のほうに、そういう部署はあるんだ。フォローはできるようになっている。」
アマギも、それについては肯定する。キラとラクスが動くことで、何かしら、オーヴにも影響があると判断されれば、その場合、オーヴ軍のほうでも、同様の動きをするか、キラたちのフォローをするか、どちらかの手段を取ることになっている。この辺りは、ウヅミーズラブ繋がりのトダカの知り合いとの連携ができるから、オーヴに関連する云々あたりは、どうとでも理由付けできるからだ。
「まあ、キラ様に、それらについては進言させて頂くつもりだ。・・・・少し交代してやろうか? シン。」
「まだ、ねーさんと交代して時間経ってないよ、とーさん。それなら、ねーさんの様子を見て来て、教えてくれよ。」
システム関連となると、トダカも手が出せない。チェックのエラー音ぐらいは判別がつくが、それだけだ。こればかりは、慎重にやらないと、後々、問題になるから、シンとレイも真剣だ。
「わかった。あちらに行って来る。」
手伝うことがないのなら、トダカも居座るつもりはない。ふたりの頭を、ぽんぽんと軽く叩いて退出する。
まあ、わかってるのだ。確実に、電池切れであることは。ただ、どこまでの電池切れなのかが問題なのだが、発熱するとなれば、かなり激しく電池切れであろうことは推測できている。
「十時間フルタイム? あーもう。」
看護士から、報告を受けて、夫夫共に呆れる。そりゃ発熱もするだろう。多少なりとも、クスリの効力は発揮されていたとしても、それだけの長時間の緊張状態なんてものに耐えられるわけはない。
「そういうことなら、とりあえず、気功波を当てて様子を看ましょう。」
気功波で、ある程度の回復をさせて、後は自力で戻っていただくしかない。電池切れなら、それで十分だ。ただし、予定より大幅に回復は遅れることは確定だ。
もちろん、緊急事態なら意識を取り戻すまで気功波で回復させることも可能だが、自業自得に、そこまでするつもりはない。せいぜい、みんなに叱られてください、と、八戒はツッコミしつつ作業を開始する。悟浄のほうは、これといってやることもないから、外で待機する。
喫煙スペースで一服していると、トダカがやってきた。現状報告をすると、やれやれと、トダカも、そこで座り込む。
「なんで、限界までやめないかねぇー、うちの子は。」
「そういう性格だもんさ、お宅の娘さん。今回は、しょうがないとは思うけどさ。」
「わかってるよ、悟浄くん。・・・・どれくらいで自宅療養できるものなのかな? 」
「意識が戻れば大丈夫らしい。二、三日は寝てるんじゃないか? 」
疲れ果てて昏睡しているだけだから、目を覚ませば問題はない。後は、滋養関連の漢方薬を飲んで、身体を落ち着かせたら、ドクターの診断を受けて、いつもの化学療法に戻すという流れだ。だから、どこで療養していてもいいのだ。目を覚ました初日ぐらいは、起きるのも大変だろうから看護士に世話してもらったほうが無難だろうというところまで話すと、トダカは、うんうんと頷いている。
「しばらく、うちで療養させるよ。ここに置いておくと、碌な事がない。」
「まさか、せつニャンが飛び込んでくるとは予想外だった。」
予定では、十月だった。だから、ここで、と、八戒のほうも段取りしたのだが、間の悪いというか、バッチリ、そんなところへ黒子猫は飛び込んできた。それも、親猫が起き出した直後だ。どっかで見ていたのか? と、ツッコミのひとつも入れたくなる。
「間の悪い子ってのは、損だよね? 」
ふうとトダカは息を吐いて、頬杖をつく。何もなければ、すでに寺へ戻れていたはずなのだが、これで、しばらくは大人しくしていなければならない。
「貧乏くじの人だからさ。」
「そうなんだ。何かしら、うちの子、貧乏くじなんだ。お祓いでもしてもらおうかな。」
「うーん、お宅の娘さんの亭主、悪運だけは強いんだけど、それでもダメかなあ。あいつぐらい往生際の悪いのも珍しいぜ?」
「その運を分けてくれると、ちょうどいいのかもしれないね。・・・意識が戻ったら連絡してくれるかい? 悟浄くん。」
「承りましょう。」
「じゃあ、私はシンたちに教えて引き返す。店は、どうする? 」
「あれぐらいなら、施術に支障はないからやります。後、帰りの足って、こっちから手配できるもんですか? 」
「それなら、シンたちに伝えておくさ。じゃあ、八戒くんによろしく。」
「お父さん、娘さんの顔は見てかないの? 」
「何もしてやれないからね。」
トダカは苦笑して立ち上がる。まあ、そりゃそうだわな、と、悟浄も手を振って送る。店のほうは夕刻だから、気功波使っている女房は少し休ませて出勤すればいいだろう。
・・・・ほんと、貧乏神にでも祟られてるんじゃね? ママニャン・・・・
あまりのタイミングに、笑いさえ感じる。意識が戻っていなければ、手伝うことはできなかったわけで、タイミングの良さには、呆れるしかない。そういう巡り合わせが、ニールの貧乏くじたる由縁なのだろうが、あまりにドンピシャすぎる。
寺のほうは、これといって変化はない。いつも通りの朝飯を食って、悟空のほうは洗濯に取り掛かる。
坊主のほうは、新聞を読みながらの一服の最中だが、タバコが切れた。いつもの保管場所を漁っても、ひとつも入っていない。
作品名:こらぼでほすと 漢方薬2 作家名:篠義