こらぼでほすと 漢方薬2
自分の騒ぎに巻き込んだのだから、看病するのは刹那の役目だ。そういうことなら、一端、あちらに戻って、その責任を果たす、と、刹那は頷く。
「じゃあ、また、ぐるぐる巻きで帰ろう。」
「いや、右腕を外して、その部分のシステムを全部遮断する。どうせ不具合を起こすのなら、最初から切断しておくほうが安全だ。」
「了解、じゃあ、システムの遮断は、僕がやるから、それでスタッフに話をするよ。」
右腕を外して、その部分の防水やら何やらは、ファクトリーのスタッフに頼まなければならない。システムの中にある右腕を使用する部分も書き換えが必要だから、そこはキラがやる。刹那のほうは、全体のシステムの調整だ。それらの分担を決めて、作業を開始した。
「この大バカモノがっっ。」
休暇を終えて、ラボの交代に出てきた虎は、ニールの部屋にやってきて、開口一番に怒鳴った。傍には、誰もいなくて、眠っていたニールは、びっくりして飛び起きた。
「とっ虎さん? 」
「この大バカモノっっ。自分が、どういう状態か認識していなかったのか? ハイネもハイネだが、おまえもおまえだ。誰が、ラボの指揮をしていいと言った? おまえには、出入り禁止を申し渡してあっただろうが。」
「すっすいません、刹那の機体が突然に落下してきたので・・・その・・出入り禁止を忘れてました。」
ぺこぺこと頭を下げて謝るしかない。昨日は、先にファクトリーから戻って来た鷹に怒鳴られた。その前は、八戒だ。こうやって、全員に怒鳴られるのかと思うと、気が重い。別荘に移って、身体は随分と楽になったのだが、なかなか発熱が治まらなくて、安静にさせられているのに、毎日、誰かに怒鳴られるので、もう帰りたい、と、思っているぐらいだ。
「二度と勝手な真似はさせんからな。」
「はい、わかってます。」
全員、だいたい同じことを怒鳴る。ラボには出入り禁止どころか、別荘にも来るな、と、命じられた。妥当な判断だから、それはいいのだが、ひとりずつに怒鳴られるのは、ちと面倒ではある。
ぺこぺこと頭を下げていたら、額に手を置かれる。それで、どすんと背後に倒される。これも、鷹にもやられた。
「まだ熱があるのか? おい、大丈夫なのか? 漢方薬治療で回復したと聞いたぞ? ママ。」
「・・あ・・いや・・回復はしたらしいんですが、その・・無理があったらしくて・・まだ。」
別荘に移って三日目だが、まだ発熱は治まらない。微熱より少し高いくらいの熱が引いてくれないのだ。あははは・・・と、誤魔化し笑いをしたら、虎が盛大な溜め息をついた。
「本当に、おまえは一人にすると碌な事がない。」
「すいません、つい、身体が勝手に動いて。」
「ついで、で倒れるまで働くか? 」
「限界がわかんなかったんです。身体がいつもより軽くて、割と動けてたから、回復したんだと思ってて・・・はははは。」
「笑いごとか? 」
「笑っておきたいんですが、ダメですか? 」
ぺチンと額を叩かれる。ダメであるらしい。やれやれと、虎も看護用の椅子に座り込む。じじいーずもわかっているのだ。あの緊急事態に、動けるのがいたら、猫でも使う。鷹も、だから、そのままニールを使ったし、虎のほうも、ラボの状況を鑑みれば、ニールが限界まで働いていたのもしょうがないとは思うのだ。ただ、叱っておかないと、何度でも再犯する生き物だから、今後のために怒鳴っている。
「ちびも、そろそろ戻るはずだ。」
「そうですか。・・・修理はうまくいったんですね。」
「いや、エクシアは、ラボでしばらく寝かせておくことになった。まだ、ちびは、世界放浪の旅を続けるらしい。」
「え? 」
「宇宙に上がるつもりは、今のところないそうだ。紫子猫からの伝言は無視するらしい。」
「いや、でも、虎さん。エクシアなしで、世界放浪って・・」
「フリーダムをキラが貸し出す。あれなら、何かあっても、うちで修理できるからな。」
「フリーダム? キラの機体で? いや、それこそ、なんかあったら・・」
フリーダムが、どこかのレーダーサイトにひっかかるほうが、危ないだろう。フリーダムは 『吉祥富貴』にしかない機体だ。それが、おかしな場所で発見されたら、ここの責任になる。
「慎重に運用させれば問題はない。ちびも、あれなら、何度か搭乗しているから使いこなせるはずだ。エクシアが発見されるほうが問題だ。うちの機体なら、キラが散歩しているのだと言い訳ができる。」
ソレスタルビーイングは壊滅した、と、世界に思われている。再始動の準備が終わるまでは、組織が生きていることは知られると厄介だから、エクシアの存在は伏せておきたい。フリーダムは、その点、現在も現存していることを知られている機体だから、発見されても言い訳さえできれば支障はない。虎の説明に、ニールも納得はするが、だが、あれも問題はある機体だ。
「散歩って・・・あれ・・あれで散歩はないでしょう。」
「なんだ、知らないのか? キラは、割と、あれで、あっちこっち散歩してるんだぞ。個人所有だから、どこの国も文句は言ってこない。まあ、隠蔽皮膜を被れば、レーダーサイトも難なく通過できるからな。」
それは、事実だ。キラのお散歩の足として、フリーダムは使われていて、レーダーサイトに引っかかっても、それで抗議された事はない。自家用ジェットと同じ扱いになるらしい。あれの動力源も知られているから、下手な攻撃もしてこない。爆破させたら、その地域は、核汚染されてしまう動力源だ。絶対に手は出したくないので、見て見ぬフリが主流となっている。
「どこの陣営にも所属しない個人所有だからな。」
「そういうもんですか? あれ、兵器ですよ? 」
「散歩の時は武装解除させてある。ちびが搭乗する場合は、重爆撃装備はできないが、標準装備はさせておく予定だから、何事かあっても対処できるだろう。」
接近戦型のエクシアより機動性では劣るが、オールマイティー対応型なので、刹那には、使い易いタイプではある。まだ、放浪の旅は終えられない、と、刹那が言うのなら、何かあるのだろう。それが判明するまでは、やめないのも、ニールには理解できる。
「じゃあ、刹那は、ここから出るんですね? 」
「おまえの看病をしてからだから、少し先になるだろう。フリーダムのほうもちびに合わせなきゃならん。」
刹那は、標準より小柄なので、キラと比べても背丈が低いし、身体もひとまわり小さいので、座席や周辺機器との距離、ラダーの位置など、調整してもらわなければならない。
「俺は、すぐに治ります。」
「そうか? 八戒が、なんか得体の知れないものを台所で大量に煮てたぞ? あれ、ママの薬だろ。」
「いっっ? 」
「寸胴で煮てたから、相当な量だ。全部飲まされるとしたら、かなりかかるんじゃないか? 」
まるで、魔女の鍋のようだった、と、虎が感想を言うので、ニールのほうはげっそりだ。点滴されるような治療はないのだが、食間と食後に、あの苦いんだか渋いんだか、複雑なお味の液体を飲まされるのは、かなり辛い。まずいというレベルを遥かに凌駕するような味だ。
「・・・もう家に帰りたい・・・」
作品名:こらぼでほすと 漢方薬2 作家名:篠義