永遠に失われしもの 第12章
「もっとも、悪魔に愛されても、
それは呪いでしかないけどねぇ...」
葬儀屋は自分の銀色の長い髪を、
すこしだけ選り分け、三つ編みし始めた。
「ええ、そうでしょうね。
ついでに言えば、死神にも愛などといった
複雑な感情は理解しえないかと...
できることといったら、
観察することと、
魂を回収することぐらいですからね、
引退された貴方のような方以外は」
「ヒッヒッ、
悪魔にできることが、
貪ることと享楽を追い求めることだけ
なのと同じことさ。
君と伯爵以外は..ねぇ。」
「少なくとも私はただの悪魔ですよ」
セバスチャンの紅茶色の瞳にうっすらと
影が差す。
--あの、
小さく華奢で脆い容れ物にはいった悪魔。
たとえどんな犠牲を払ってでも、
その日が来るまで、
守り抜こうとした、その魂。
そして二度と手に入ることのない魂。
愛?--笑わせる
その魂の幸せなぞ願った事もない。
ただ欲しいのだ--
我が物としたい、
その執着だけが我が身に残っているだけ-
「君たちを見ていると、飽きないよ。
執事君は、自分の美学に、
伯爵は自分のプライドに、
がんじがらめになっているのを
見ているのは、いつだって飽きないのさ。
君たちにとってのそれは、
骨折した後の骨のようだねぇ。
どんどん厚く、硬くなっていって、
壊すに壊せなくなってしまう...」
--それでも、
我が主の自尊心が粉々に砕かれ、
私が美学を捨てる日が、必ず訪れるのだ
必ず--
・・セバスチャン!・・
我が主の呼ぶ声がする。
・・来い!・・
「もうおいとましませんと--
我が主に呼ばれましたので」
「本当かい?伯爵が...君をねぇ...」
「ええ、事態は差し迫っているようですので
力をお借りできませんか?」
セバスチャンは椅子から立ち上がって、
葬儀屋を見つめた。
作品名:永遠に失われしもの 第12章 作家名:くろ