永遠に失われしもの 第12章
ロシアのウファの古びた教会から
ローマまで、3500キロ以上の距離を、
ほぼ光の速さで駆け抜け、
葬儀屋が空間を切り開く。
そしてサンピエトロ聖堂の塔の上から、
再び葬儀屋とセバスチャンが地に
舞い降りた。
「またヴァチカンに来てしまいましたね」
「ヒッヒッ、
ローマには高い塔がないからねぇ...」
「まぁ、ここからなら近いので、
問題ありませんよ」
ウファから時差のあるローマでは、
今まさに日没を迎えようとしつつあった。
二人の姿は高速で駆け抜ける
黒い二つの影となり、
夕焼けで黄金色に染まる
ローマの街並みを通りすぎていく。
通り沿いに、数々の遺跡が散見する、
アッビア街道の石畳の両脇に立つ樹木を
飛び伝いながら、南下し、
アッビア旧街道に入ると、
シエルの気配はさらに濃くなった。
やがて、サンセバスチアーノ門を抜けると
セバスチャンは勢いを緩める。
のどかな夕暮れの田園風景の中に、
崩れ落ちた廟の入り口らしきものがある。
「ここかい?」
「ええ、サンカリストのカタコンベの入口
ですね。まだ再発掘されて四十年経たず、
全貌はまだ誰にも
わかっていないという--」
「黒ミサをするには、
もってこいな場所だねぇ...」
「ええ、歴代の教皇の霊廟の地下深くで、
彼らを穢すように背徳的なミサを
催すのは--
心惹かれますね」
セバスチャンの口角が少し上がって、
一見無邪気そうな微笑が広がる。
「そんなものかねぇ...」
漆黒の執事は、入口を抜け、
朽ちかけた石の階段を下りていく。
どこまでも続きそうな長く細い
地下道を歩み、
ぽっかりと大きな空間に出た。
「ああ、教皇の霊廟だねぇ...?
大理石の棺...たまらないよ...
小生も是非、
次の葬儀の参考にしようじゃないか..」
葬儀屋はにこにこしながら、
教皇の碑文を読んでいる。
「ここから二層下がった場所で、
多くの人の気配がします」
「地下教会かい?...」
「ええ」
短く返事をしながら、
セバスチャンは歩調を速める。
作品名:永遠に失われしもの 第12章 作家名:くろ