インソムニア
クラウスは眠りから覚めた。自室の天井が味気なく広がる。辺りは暗く、静かだった。
いつの間に寝てしまったのか、いつ大広間から自分の部屋に移動したのか。
「……っ、違う」
ぐらつく頭を振りかぶって、記憶を整理する。
不眠症の兵の話は昔のこと。あの後休憩を挟んで再び会議を始めようとしたが、軍主のインがトラン共和国の英雄らしい少年を連れて帰ってきたのでうやむやになってしまった。その後不眠症に悩む兵たちがどうしたのか、クラウスが話を聞く機会はなかった。
あれから随分と時は経ち、すでにマチルダ攻略は済んだ。つまり、過去の記憶を夢に見た、ということだ。あまりに鮮やかすぎて、現実と混同してしまった。
なぜ今あの時のことを夢に見たのか。
考える前に再び頭を振る。時計を見ると短針は三を差していた。
「まさか夜中なのか?」
思わずため息をつく。深夜に起きてしまうのはこれで四度目だった。