インソムニア
シエラと別れ、クラウスはシュウの部屋の前に来た。扉のすき間から灯りが見えている。
「誰かいるのか?」
「……っ」
中から届く声に観念して、部屋に入った。
ランプが灯る薄暗い部屋の中で、シュウは本を片手に、机の上の大判地図になにかを書きこんでいる。ベッドの上は猫が占領していて、クラウスを見るとにゃあ、と眠そうに鳴いた。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「お話したいことが」
シュウは怪訝そうに顔をあげ、黙って机の前にある椅子を指す。クラウスは座りながら、さりげない風を装って口を開いた。
「父は武人として立派に役割を果たしたと思っています」
ばさり、と本を落としてシュウは固まる。クラウスにとってシュウのこんな反応を見るのは初めてのことだったで、自然と肩に入っていた力が抜けた。
「その思いは確かにあるのに、それとは別に、もっと父と一緒にいたかった、ハイランドとの戦いの最後まで共にありたかったと思ってしまう気持ちがあります。自身の矛盾に挟まれて、眠ることが出来ないのです」
こんなことをシュウに言うのは八つ当たりに近かった。けれど今の自分なら、嫌味も含みもなく素直に打ち明けられると思える。
シュウは無言で机を離れると、ベッドの上の猫を抱き上げてクラウスの膝にのせた。
「コイツは俺の愛猫だ。愛想が良いうえ寂しがりやでな、人が布団に入らないと寝ようとしない」
「えっ?」
「俺はもう寝るつもりはない。早朝にやらなければならん仕事があるからな。クラウス、お前が一緒にいてやれ」
クラウスが口を開く前にシュウは机に戻り、一旦休憩、という空気を醸しだす。染み付いた習慣で思わず立ち上がると、そのまま部屋を追い出された。