帝人受けまとめ
六臂帝 猫六臂と帝人
雨の日、大学の講義が長引いていつもより大分遅い時間に通る通学路。
帝人はその通学路に存在するある一本の街灯の下に置かれた段ボール箱が目に入った。
その段ボールには、『拾ってください』の文字。帝人は開いた口がふさがらなかった。
(うわぁぁ、雨の日にこんな所に動物捨てるとかあり得ないよ・・・)
帝人は傘くらいでも、と思いながらその段ボールの傍まで行き、瞼を何度も瞬かせた。
「え?」
驚きの言葉は口から漏れる。その段ボールの中には、確かに生き物が居た。
生き物だ、生きてはいる。けれど、動物ではないだろう。
黒い耳と、長い尻尾はどこをどう見ても猫そのもの。けれど、その身体は、どこをどう見ても人間だった。
その姿は人間の赤ん坊より少し小さかったが。
「え、なにこれ・・・」
キメラか何かか、と思ったその時。
「猫だよ、バカ」
突然話しかけられて帝人は蛙を踏みつぶしたかのような声を上げた。
段ボールの中の生き物は眉を嫌そうに寄せると、段ボールの中でまた蹲ってしまう。
「・・・もしかして寒いの?」
「この状況で寒くないとかありえないよね」
「ですよねぇ・・・」
帝人は自分の中に芽生えた好奇心がむくむくと大きくなって来ているのが解る。
気が付くと自分の口角が上がっていた。これは、駄目だなと思った瞬間、帝人はその猫を抱きかかえていた。
「ちょ!?何するの!?触るな人間!」
「煩いです。黙ってください。僕が拾ってあげます」
「はぁ!?お前バカ!?バカでしょ?!良いからおろせよ!雨が止めば出て行けたのにっくっそっ!」
腕の中で猫は爪を立てて暴れ出したが、その時傘を持っていた手がぶれて雨の雫が猫の鼻に掛かった。
その瞬間、猫の身体に鳥肌が立ったことが解る。にたり、と帝人の口角が上がった。
「雨当たりたくないよね?」
「はっ!お前もそうだろ?」
「別に、僕は濡れても平気。乾かせばすむから」
「・・・良いからどこへでも連れていけ人間」
「ふふ、ねぇ、名前とかある?」
帝人は腕の中の猫が濡れないよう、傘をより前へと出す。自分の背中が湿ってきたのが解ったが、気にすることはない。
本当に乾かせばすむことなのだから。
「・・・お前に答える名前なんてないよ」
「じゃぁ、タマってするけど良いの?」
猫の唸り声が響く。帝人は可笑しくておかしくてたまらなかった。
でも、笑い声を立てないよう必死に唇を噛み締める。
「・・・ろっぴ」
「ろっぴ・・・?」
猫はちらりと帝人を見つめ、にやりと笑った。その猫が紅い瞳だと言うことを帝人は気づく。
(綺麗な紅い瞳だなぁ)
「意味解らないだろ。お前みたいな人間に解るわけ、」
「六臂。八面六臂。確か、多方面で、めざましい活躍をすること。また、一人で何人分もの活躍をすることだよね?」
六臂は顔を苦虫を噛み潰したようにゆがめて、ぷぃっと顔をそらしてしまった。
「・・・お前、人間の中でも特に嫌いな人間だ」
「へ?そう?」
帝人はふふっと鼻で笑いながら、早く家に着かないかなぁと呟いた。