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Alf Laylar wa Laylah

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「あたしが思うにねえ、あんたんとこの領主が焦りだしたのも、多分根っこは同じ理由なんじゃないかと思うんだよ」
「根っこは同じ?」
「そうさ」
 ピナコは頷いた。そして一度腕組みした後、最初の言葉を探すように目を伏せたが、すぐに開いて説明を続けてくれた。
「いつの頃からかはわかんないよ。だけどね、都じゃあ、どうもジンが夜な夜な、どころか昼間っからでも出てきちまうんだそうだ。今じゃね」
「…ジンが?!」
 アルは息を呑んだ。そんな話は前代未聞だ。確かにジンの中には人間に悪戯するのを好むものも多いが、だからといってそんなにたくさん出没するだなんて聞いたことがない。だが、とはいえ、ジンに似た何か、などは存在しない、何よりピナコがそんな適当なことを言うはずがない。
 ちなみに、アルはほぼ全ての事情をロックベル一家に話したが、ジンについては濁していた。彼らを疑うわけではないが、何もかも話して迷惑をかけるのは本意ではない。だから、彼らは鷹と狼がジンであることは知らない。
「あたしは会ったことはないが…昔っから、ジンの気にずっとあたってると、体の弱い奴は体が、心の弱い奴は心がやられるって言ったもんだよ」
 アルは目を瞠った。つまり、要約するなら、ジンの傍にいると、抵抗力の弱い人間から失調し始めるということだろう。
「あんたたちみたいな錬金術師が傍にいれば、まあ一応身の回りは安心だ。そう考える奴がいてもおかしくない。領主はそういうのにせっつかれてるか、自分から売り込もうとしてるか、そんなとこだろう」
 何しろあたしたちはあんたらくらいしか錬金術師というのを知らないからね、とピナコは言う。
「で、うちに声がかかったのは、それで具合の悪くなった奴がいるか、もしくはそうなっても治すため、そんなとこだろう」
 ピナコはふう、と溜息をついた。
「深慮所を燃やしたのは脅しと、あとは、…」
「ここに患者がいるのに見捨てていけるわけがない、と断ったんだ」
「おじさん」
 アルは目を瞠った。ウィンリィの父親が、困ったように苦笑していた。彼らしい言葉だ、とアルは思う。
「それなら、ということだろうな…」
 アルは、自嘲気味に笑う親しい家の男を見た。そして、ピナコの言ったことを反芻する。
「……おかしいじゃないか」
 拳を固め、俯いて、アルは小さな硬い声で搾り出した。
「アル?」
 ウィンリィが顔を近づける。その顔には心配があった。
「ボク、決めた、ばっちゃん」
「アル?」
 きっぱりと顔を上げて宣言した少年には、はっきりとした憤りがあった。そして、それを正しいと信じる強さが。
「都に行く」
 ピナコは目を丸くし、ウィンリィもまた呆気にとられた顔をした。その両親にしても、互いに顔を見合わせるだけだ。
「なんでそんな、他人の都合で、逃げたり怪我させられたりしなくちゃならないんだよ、そんなの間違ってる!」
 アルは固めた拳をぐっと胸の近くで震わせた。
「いいよ、ボク都に行く。王様に言ってきてやる」
「あ、アル?」
「余計なちょっかいは困ります、って!」
 部屋の隅で面白そうに事態の顛末を見守っていた鷹のジンと狼のジンは、互いに目を合わせ、気配だけで笑った。なかなかに面白い少年だ、と思うのも同じ。
「じゃあね、ばっちゃん、おじさんおばさん、ウィンリィ。ちょっと待っててね、ちゃっちゃっと行ってくるから!」
「アル、ちょっと落ち着いてよ!」
「落ち着いてるよ。だから今夜は寝て、明日の朝診療所を直してから出発する」
「直すって…」
 少年はけろりとした顔で言った。
「だって、ボクは錬金術師だ」

 宣言した通り、アルは、診療所を元通りにして見せた。桁違いの能力に、知っていたはずのロックベル一家でさえ息を呑んだ。これでこの少年が言うようにその父と兄が少年より優れているというのなら、一体どれ程なのだろうかと背筋が冷える。
 しかし。振り向いた少年は、特にどこが誰と違うでもない、普通の少年だった。昔から一家がよく知る。
「じゃあ、ボクは行くね」
 少し疲れた様子で額をぬぐったものの、それ以外は特に何も感じさせず、アルはロックベル一家にそう告げて、来たとき同様狼と鷹を連れてその街を出た。
 ――なお、放火までした貴族の使いは、完全に復元された診療所を見て腰を抜かし、これはジンでも味方につけているのに違いない、と取るものもとらず逃げ出すのだが、それはアルやロックベル家の知るところではなかった。
 こうして、思わぬ形で始まったアルの旅は、都を目的地に定めることとなったのだった。



「…う、ん…」
 唐突に目が覚めて、少年はぼんやりとあたりを見回した。幾許かの間を置いて、そういえばイフリートはどうしたのだろう、と思って身を起こし、ようやく息を呑んだ。
「起きたか」
 全く気配が読めなかった。
 エドはどうやら暗い室内にいるようなのだが、少し離れた場所に椅子に腰掛けた人物がいた。そしてそれは、ロイではない。他の、エドが知る誰でもなかった。
「誰だ…」
 エドは声と体を硬くして呼びかける。誰か、はエドに近づいてくる。気配のない男だ、足音も当然のようにさせなかった。
 だが近づけば顔かたちはおぼろげにわかるようになる。いくら光源がなかったとしても。
「………」
 立っていたのは、左目を眼帯で覆った壮年の男だった。父親とあまり年が変わらないくらいに見えるが、何しろ暗いのでいまひとつよくわからないというのが本当のところだった。彼はあまり感情のない目でこちらを見ていた。エドは、呑まれないように必死に目を開き続けた。瞬きまで禁じて。
「なかなか、気丈だ」
 やがてどれくらいが過ぎたのか。男は、ふと雰囲気を緩めて、笑みらしきものまで浮かべてそう言った。やはりはっきりは見えないが、そうではないか、と思われた。
 だがエドは混乱するばかりである。突然連れ去られ、目が覚めたら目の前に知らない男がいたのだ。混乱するなというのが土台無理な話だった。
「ああ。名乗るのが遅れた。私は…、そうだな、何と呼んでもらうのがいいものか…、」
「――あんた、ジンか」
 目の前にいるのはどこからどう見ても人だった。だが、何かがエドの中で引っかかったのだ。そう、何か、が。
 たとえば、人の形を取ったロイは、どう見ても人にしか思えなかったが、それでもどこかに違和感があった。それはエドがロイの正体を知っているからだろうとそれくらいに考えていたが、こうして離れてみて、同じように感じる相手と向き合って初めて、そうではなかったらしいと気づいたのだった。
 目の前にいる男は立派な壮年男性だが、どこかが何か引っかかる。それが何かは判然としないのだが。
「面白いことを言う。少年。もしも私が本当にジンだったとしたら、どうするんだ?」
 男は楽しそうに見えた。エドはしかし、楽しくもなんともない気分で答えを探した。ここで機嫌を損ねてジンに害されてはたまらない、といったような普通の思考は、少年にはなかった。
「別に…どうもしない」
 首を振れば、男は腰を屈め、エドの隣に腰を下ろした。そして何かをしたらしい。わずかに手の動きを感じたが、とにかく、現象として定かなのは、部屋に灯りが勝手にともったということだった。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ