二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Alf Laylar wa Laylah

INDEX|27ページ/37ページ|

次のページ前のページ
 

 彼は感情の読みづらい細い目をしていた。一見すると気さくそうな雰囲気だが、どこか油断ならない雰囲気をしている。大体、先ほどの視線の主がもしも彼だったとしたら、それだけでも警戒すべき人物ではある。
「その指環」
 エドの閉じ込められている部屋は後宮の三階で、中庭には少し距離がある。だが見えているのか見えていないのかわからない目をした少年と青年の境くらいにあるその男は、しっかりとエドの右手の指環を示していた。
「変わってるナ。喋るんだ?」
「…そ、んなわけないだろ! 大体、誰だおまえ!」
 指環を隠すように胸に抱き寄せた格好で、エドは怒鳴った。脅かされるのは性に合わない。だが、相手は楽しそうに肩を揺らすだけだった。
 襟足の部分だけ長い髪は、どうやらそこでひとつに括っているものらしい。身なりは悪くないが、貴族というのとも違う気がする。生まれながらにして人に傅かれることに慣れた空気を感じるが、居丈高というのではない。
「リン」
 彼は軽く胸を張って、自分を示しながら短く名乗った。
「リン?」
 エドは名前を繰り返し、小首を傾げる。
「ソウ。まあ、殿下と呼んでくれても構わナイ」
 エドは目を瞠った。一体この国の王族というのはどうなっているのだ。普通王族というのは宮殿の奥で召使に傅かれ穏和にころころしているものなのではないのか、それが常識ではないだろうか。それなのに王は得体が知れない、王子もなんだか曲者の雰囲気ときては、…まあ政治的にはそういう人間が上にいた方が安心ではあるのかもしれないが、それにしてもどうなっているのだろうかと戸惑う。
「で、お、王子様が、何の用だよ、…っていうか、王子だって、うろついてていいのかよ、こんな…」
 王子を名乗った男は肩を竦め、笑った。
「さあネ、ばれなきゃいいんじゃナイ」
 エドは絶句した。無茶苦茶だ。
「ところで、俺は名乗ったヨ。君の名前は」
「お、…わた、し、は」
 エドは言葉に詰まった。真実をどの程度は為していいものか憚られたのだ。これがあの得体の知れない国王の罠とも知れないし。しかしだからといって、後宮の女になりきるというのはエドには難易度が高すぎた。結果、ぼそぼそと俯いて、適当な名前を名乗ること。
「う、…ウィンリィ」
 ごめん、と幼馴染に手を合わせる。まあ、どうせばれることはないだろう。
「ウィンリィ?」
 ふーん、とリンは首を捻った。
「そ、そう」
「ウィンリィは、どうしてここに? 貴族の娘っていうんでもなさそうだけど。なんか、親父殿が急に連れてきたんダッテ?」
「…そんなのこっちが訊きてえよ」
 思わず地が出て低い声で返せば、リンはぽかんとした顔をした後、面白そうに笑った。
「アハハ、面白いね、ウィンリィ」
「こっちは面白くねーよ、ちっとも!」
「なんか君、男みたいな喋り方だ」
 みたいじゃなくてそうなんだよ、とエドの喉元まで台詞がでかかったが、エドはどうにかそれだけはこらえた。それに、この格好でそれをいうのはどこか屈辱も覚える行為だった。口をつぐんだ理由はそれもある。
「君、金の魔法使いじゃないのカ?」
 エドはきょとんとした顔をした。リンは探るような顔をしていた。さきほどまでと違い開かれた眼は鋭く、彼がやはり油断のならない人物であることを伝えている。
 だが問われていることに、エドは全く心当たりがなかった。
「…なにそれ?」
 エドがもしもジャンと離す機会を持っていたのなら、リンが問いかけた内容も理解できたことだろう。だが知らなかったので、ぽかんとした反応しか出来なかった。
 だが、結果からいうならそれでよかったのかもしれない。もしもここで、そうだ、自分は金の魔法使いの子供なのだ、錬金術師なのだ、などと知れたらややこしいことになっていたかもしれないからだ。少なくとも、リンは、エドが嘘をついていないことを察すると、元の雰囲気に戻って「知らないならイイや」と流してしまったのだから。
「まだまだ先だろうけど、親父殿が引退したら、後宮の一部は俺に引き継がれるんダ。その時はよろしく」
「…はぁっ?」
 じゃあネ、とひらりと手を振って背中を向けた男にエドは素っ頓狂な声しか上げることはできなかった。
 そして。
 もしもこれがきっかけでウィンリィに迷惑がかかったら、自分は殺される、きっと、絶対に、と少年は青くなった。あの幼馴染が後宮に迎えられることを玉の輿だなんて喜ぶとは到底思えない。
 しかしだからといって、エドがここに残るなんていうこともありえない。無理だし、嫌だ。
「…マジでヤバイ」
 エドは蒼白になりながら無意識に指を唇に近づけた。呼んだら着てくれたらいいのに、エドのイフリートは現れる気配がなかった。一体どうすれば自分の声は彼に届くのだろうか?



 エドを連れ去られたロイがどうしていたかというと、彼だって遊んでいたわけではない。勿論その気配を追っていた。追って、実は王都のどこかにいるらしい、ということまではわかっていた。
 しかし、王都の状況が彼にそれ以上の捜索を困難にさせていたのだ。
「…どうなってるんだ、一体…」
 具象化することなく、彼は中空に浮かぶようにして、王都の城壁のあたりで王都の中を視ていた。
 都の城壁の中は、濃い瘴気に満ちていた。これでは弱い人間などはいるだけで体を壊してしまうだろう。だが、反して、ジンにとっては居心地のよい環境だ。これではジンが跋扈するのも無理はない。何しろ居易いのだから、集まるだろうし長居もするだろう。それは人とさして変わらないことだ。
 そしてそれらを締め出すように強い結界が張られた場所が何箇所かある。最も強い結界が張られているのは当然のように王宮周辺。ロイがかつて知っていたそれと少し変わっているようだが、内奥の部分はあまり変わっていないらしい。懐かしいような、他の様変わりが寂しいようななんともいえない気分で彼は宮殿を遠く視る。
 王都の中は瘴気と人間の作り出す結界とが複雑にせめぎあって、イフリートであるロイにとっても、そこから気配を探すのを困難にさせるものだった。何しろ王宮などは壁が厚すぎてほとんど見えないのだ。
 ――ここに至るまでで彼がまずしたのは、エドを最初にさらった呪い師を探し出すことだった。これはそう時間がかからなかったが、ロイが危惧した可能性、すなわち、交代で遠くまでエドを運ぶ術を繰り返したことが明らかになっただけで、大きな収穫にはならなかった。しかもこの運び屋たちは俄か雇われで、互いの名前すら知らなかったのだ。知らないことはイフリートでも吐かせようがない。
 それぞれの記憶から次に渡した人間を洗い出し、ひとりひとり潰しながら、エドの気配を確かめながらロイは王都に辿り着いた。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ