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Alf Laylar wa Laylah

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 大物だ、とエドは舌を巻いた。国王とまみえたのはほんの一瞬だが、何をどうするとあれを「気さく」と評せるというのだろうか。正妃ともなるとやはり違うのだろうか?
「いや、あの、でも…」
「じゃあ、せめてお名前を教えてちょうだい?」
「…う、…エド、です」
 今度は幼馴染の名を騙らずに、愛称ではあるが自分の名を名乗った。前で懲りたから、ではなく、この女性に嘘をつくのが嫌だったからだ。
「エド。そう、エドというの」
 彼女はにっこりと笑い、自分の娘にでもするように、エドの頭をそっと撫でてくれた。
「あの人を、嫌わないでやってね」
「え…」
「理由はわからないけれど、あの人が連れてきたと聞いたわ。でも、あの人はあなたをここに閉じ込めるだけ…私が聞いても教えてはくれないでしょうけど、…悪く思うなというのは虫が良すぎると思うのだけど、あまり嫌わないでやってね」
「え、あの…嫌うとか、そんな…」
 確かに閉じ込められている状況には嫌気が差すし、その点においてはあの隻眼の王を憎いと思う。だが、性格については全く知らないし、そういう意味では、彼自身を憎むことはできなかった。あまりにも知らないからだ。
「ふふっ、あのねえ、あのひとったら、最初に私と会ったとき、私のお尻をなでたのよ、急に」
「……は」
 エドはぽかんと口を開けた。あの国王が? と思うと全く想像ができなくて、絶句するしかない。だが目の前の女性はくすくすと笑っている。
「私あんまり驚いて、うっかり殴ってしまったのよ」
「な、…ぐった?!」
 あまりの内容にエドの声は裏返ってしまった。両方が想像の範疇を超えた二人だというのは確かだとわかったが、あまりありがたくない。
「――ええ、そうなの。おかしいでしょ?」
 ふふ、とそっと口元を押さえて笑う顔は、真実彼女が王を愛しているのだということを如実に伝えていた。なぜならそれは、トリシャがよく見せる表情と似ていたからだ。
 エドは何となく目を細めた。突然つれてきたあの国王には怒りがあるが、こんな風に夫人に愛されているのなら、どうしようもない人柄(ジン柄?)ではないのかもしれない。そう思った。そしてそう考えたら、なぜ彼がエドをここに連れてきて閉じ込めなければならなかったのか、ということがあらためて気になった。
 彼は、隻眼の王は、あの時何と言っていただろうか?

――何もほしいものはない。ただ、邪魔をされたくないだけだ
――…オレは邪魔なんか、
――君にも、君に封印を解かれた相手にも、私の邪魔をする気などは確かにないだろう。だが、存在することが既に均衡を崩すのだよ

 エドは一言一句違わず思い出して、内心首を捻る。「邪魔をされたくない」「存在することが均衡を崩す」、これが恐らくは鍵なのだろう。だが意味はわからない。
「ええ…、あの、面白いです、ね」
「そうでしょ?」
 気さくに笑うこの王妃がエドは好きだと思った。だから彼女のために、エドは王を嫌いたくはないと思ったのだった。

 正妃は残って一緒にお茶を、と言ったが、エドは丁重にそれを断って、後宮の中を歩いた。今度はただの散歩ではない。少しでもロイに声の届きやすい場所を探してのことだ。
 ぐるぐると歩いていたら、まるで隠すようにひっそりとある、小さな扉を発見した。開かないかなと思い押してみたら、案の定開かない。しかしエドが開けない扉などはないのだ。
 少年は、今はどこからどう見ても少女にしいか見えない錬金術師は、ぱん、と手を合わせて扉に触れた。途端、ぱあっと練成光が溢れ、扉の中に扉が出来る。エドのためだけの扉だ。彼はそれを慎重に押してみた。中にはのぼりの階段があった。どこまで続いているかは輪わからないが、行ってみる価値はあった。こうして隠しているような場所なのだ、中にいる人間に見つかると都合の悪いものなのだろう。
 だが階段を昇るエドは気づかなかった。指環の中のマースでさえ気づかなかった。隠し扉に消えていくエドを見ていた人物がいたことに。

「う、わぁ…!」
 昇ってみれば、そこは屋上のような場所だった。
 一応柵はあるものの、宮殿、いやそれどころか王都が一望できる場所は空に近い。エドは思わず感嘆の息をついて、そして柵に近づいた。
「待テ」
 ――気配はまるでなかった。
 エドは肩を揺らして、恐る恐る声がした背後を振り返った。そこには、黒尽くめの人物がいた。顔は面で隠しているが、声の調子からすれば、エドとそう年の変わらない――多分少女である。
「…誰だ」
 エドは警戒を漲らせて身構える。
「…部屋に戻レ」
「誰だって聞いてる」
 エドは一歩も退かず面の奥の目を睨みつける。どんなにそう見えなかろうと少年だ。瞳の強さは隠しようもない。相手もそこを怪訝に思ったらしく、戸惑うような空気が漂った。
「…名などはない。私は…」
「だから、誰だって聞いてるだろ? 何回も言わせるなよ。名前がないやつなんているわけない、それでもないっていうなら勝手に名前つけて勝手に呼ぶぞ」
 少し苛立ったように言えば、ぐっと詰まった後、少女は小さな声で答えた。
 ランファン、と。
「よし、ランファン。オレはエドだ」
「…?」
 女ではないのか、とその態度は如実に物語っていた。エドは肩を竦める。
「あのな。ええと、なんて聞いてるのかわからんけど、オレはここにつれて来られて軟禁されてるんだ」
「…魔法使いだと聞いてイルが」
「魔法使い?」
 こくりと少女は頷いた。顔が見たいとエドは唐突に思う。話している内容はさっぱりわからないが、顔を見ながらだとわかることもある。表情の変化から読み取れる真実だってあるのだ。しかしそればかりでなく、自分と年の変わらない少女が、こんな風に隠密のようなことをしているのも気になった。
「うーん…オレは錬金術師であって魔法使いではないんだけど」
「だが…違うのか? さっきも扉を作っていた」
「見てたのか」
 こくりとランファンは頷いた。屋上には強い風が吹いているばかりで、二人しかいない。
 そういえば、とエドは思い出した。
「誰かにも言われたな、金の魔法使いって…リンとか言ってたか」
 瞬間、ランファンの気配が動揺したように揺らいだように感じた。あれほど気配を見事に立っていた少女だが、やはりエドと年が近そうな印象の通り、まだ動揺したりもするらしい。しかしリンの名前を出して動揺するということは関係者だろうか。
「ランファンは、リンの知り合いか」
 尋ねれば、彼女からの返答はなかった。知り合いかどうかはともかく彼女はリンを知ってはいるらしい、エドはそう結論づけた。
「金の魔法使いってなんだ? ランファンは知ってるか」
 今度も返答はないかと思ったが、彼女は首を振った。そして「知らナイ」と答える。
「そっか。そうだよなあ。じゃあ、リンとかいう野郎を締め上げるしかないか…」
「だ、駄目ダ!」
 ランファンは慌てたように制止してきた。それがおかしくて、エドは腹を押さえて笑う。
「冗談に決まってるだろ、第一どこにいるかもわからないのにどうやって締めるってんだよ」
「…だ、騙したナ!」
「そうでもない、居場所がわかれば締めるつもりだった」
 ランファンの拳が強く握り締められる。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ