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Alf Laylar wa Laylah

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「…なあ、ランファン。オレはなんでここに閉じ込められたかわかんないんだけど、ここから出て行きたいんだ」
「…それは、…無理だろウ、陛下が…」
「――あれは本当に国王か?」
「…っ」
 不意打ちに少女は息を呑んだ。答えならそれで十分だった。
「ジン、だろ?」
「そんなわけはない、国王陛下に畏れ多い…!」
「ランファンは気配を感じさせなかった。それくらいの達人が、わかんないわけない」
 畳み掛けるように問い続ければ、ランファンは黙り込んでしまった。しかし、俯いてしばらくした後、ぼそりと口にしたのだ。
「…陛下は、恐ろしイ」
「恐ろしい?」
「…陛下の中には人より凄まじいものがイル。…でも、その血は殿下にも流れてイル」
「殿下って、…ああ、リンとかいう…」
「――魔法使い」
 だから違うって、と軽く否定しながらも、エドは真っ直ぐにランファンを見た。
「おまえは殿下に災いを為すものカ? それとも違うのカ」
 ランファンの問いかけは静かだったが、それだけに真剣なものだとわかった。尤も、冗談を言うような性格でもなさそうだったが。
「そんなもんはわからん」
 だからエドも正直に答えた。
「オレはそいつに害のあることをしようとは思ってない。でも結果にまでは責任は持てない」
 ここを脱出してロイと合流し、そして旅を続けるとして、それが回りまわって害を与えることにならないか、といわれるとそこまでは責任をもてないのが真実だった。
 しかし、それでもランファンは胸をなでおろしたらしい。少し長めに吐いた息にそれが感じられた。
「そういう意味でいえば、ここにいる方が害になるかもしれない」
「何?」
「オレはここを出て行く。オレ、相棒がいるんだ。そいつをここに呼んだら、建物くらい簡単に吹っ飛ぶ」
 まだエドもロイの魔力の全てを見たわけではない。だが、見なくてもその強大さ、魔術の巧みさはわかる。もしかしたら今頃せいせいしえいるかも、という恐れは多少あったが、少なくとも契約の証がある以上、彼は来るだろう。そういう男だと思う。
「それは、困ル」
「だろ? だからオレに協力してくれないか」
「協力…」
 ランファンの中には迷いが見て取れた。彼女の忠誠はどうやら「殿下」に向けられているようで、王は畏怖の対象でありこそすれ、守る対象ではないようだ。
 後一歩、エドはそう思った。だがなかなかうまくいかないのが世の中だ。
『困るねえ、勝手なことされちゃうと』
 頭の中に響いた声に、エドとランファンが同時に体を引きつらせる。
「誰だ!」
 エドの立ち直りは早かった。なんとなれば、彼はジンに慣れていたからだ。
「出てきやがれ!」
 声がしたあたりを振り向いて睨みつければ、風が吹きわたっていただけの屋上に黒い靄のようなものが浮かんだ。それは次第に集まって形になっていく。エドは白い長い衣をなびかせながら身構えた。
「あーあぁ、もう、人の姿って好きじゃないんだけどねェ」
 やがてそこには、黒い、体にぴったりとした服を身につけた青年が立っていた。髪は長く、黒い。瞳も同様の色だ。それはロイにも通じる色だったが、同じだとはエドは思わなかった。
 身がまえも解かず、敵意をはっきりと見せて、エドはその青年、ジンが具現化したものであるそれを睨みつけた。ランファンからは戸惑ったような気配も感じたが、恐れてはいないらしい。さすがにそのあたりは普通の少女ではないのだろう。
「おまえ、誰だ」
 エドの恫喝のような問いかけに、青年はひとしきり笑った後、凶悪に顔を歪めた。
「やだね、なんで俺がおまえごときに名前を教えなきゃならないんだよ」
「馬鹿野郎、誰がてめえの名前なんか知りたいってんだよアホ、ただ不便だから聞いてるだけだ。言わないなら勝手につけるからな、このもやもや野郎!」
 指さして言ってやれば、ジンは明らかに怒りの表情を浮かべてエドに歯をむく。
「ちょっ、こらこのチビ、んっだその適当な名前!」
「貴様こそ誰が微生物並のチビかこの野郎ぶっ殺すぞ!」
 二人?の低レベルな争いに、ランファンだけがどうしていいか決めかね、黙って様子を見守っていた。関わり合いになりたくないというのが一番だったが、そういうわけにもいかない。まだ人間であるだけエドの方が親しみを感じたが、ここから逃がすなという指令を受けているのも確かなので、そういう意味では後から現れた黒いもやもや(ランファンもエド同様センスはあまり…だった)の方と協力すべきなのだが、それは気が進まない。そういったわけで、彼女にできたのは、唯一、黙って事の趨勢を見守ることだけだった。
「ったく、こんなのに封印とかせるなんて、焔の奴もなに考えてんだ…」
 青年はそっぽを向いてぼそりと呟いた。いや、穿き捨てた、といってもいいかもしれない。だがエドはそれを捨て置かなかった。
「ちょっと待て…、焔って、あいつのことじゃないだろな」
「あいつって? 誰だよ」
 青年はにやにやと笑った。だがエドは確信した。焔。確かに相棒には相応しい呼び名だろう。彼は焔の魔法に長けるイフリート、その中でも飛びぬけて強い、まさに焔の魔神だ。
「おいこら、もやもや、おまえあいつと知り合いなのかよ」
「うるっせえよチビ、んなこと親切に教えてやると思ってんのか?」
 また暫し睨み合いが続く。ランファンはいよいよ困惑した。正直どちらも己の主には害をなすような気がしてきていた。
「とーにかく! おチビは部屋に戻れよな、じゃなきゃ俺が殺されちまうだろが」
「はあ? 殺される?」
 エドは首をひねったが、ぴん、とすぐに閃き、人の悪い顔をする。そういう顔をするとジンより性質が悪く見えるよ、とかつて弟をしてそう言わしめた顔である。
 案の定、人間の何倍も老獪なはずのジンが不審げに顔を歪めた。彼から見ても相当悪い顔だったのだろう。
「なーんだ、おまえ、弱いんだな!」
「なっ…」
 青年の顔に怒りが浮かんだ。はっきりと。そしてそれに合わせたように、晴天の下だったはずの屋上の風が強くなり、薄暗くなった。黒い靄が曇天を作り出しているのだ。このあたり一帯の空模様が急激に変わっていることを思えば、彼は強力なジンなのだろう。だがエドはばたばたと翻る衣にも負けず、しっかりと足を踏みしめながら自信たっぷりに挑発を続けた。
「殺される! なんてさ。おまえ弱いジンなんだ、だからこんなとこで見張りなんかに使われてんだろうが――」
 エドの語尾に鋭い音がかぶさった。青年、だったものが、体の一部を変形させ、その拳が少年に襲いかかったからである。エドは咄嗟に横に飛んで避けたが、二激、三激と続く間に身動きのとりづらい衣服のせいで劣勢に追い込まれそうになる。
「ふん、人間風情がこのエンヴィー様によくもいってくれる! やめだ、おまえを八つ裂きにしてやる! イブリースにはおまえは死んだといえばいいさ!」
 エドは転がりながら目を瞠った。
 イブリース?
「ちょ…待て!」
「今さら命乞いか? みじめだな!」
「そうじゃねえよ、おい、おまえいまイブリースって…!」
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ