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Alf Laylar wa Laylah

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 膝に抱えられ、ロイの首にしがみついた。だが目に恐怖が出ていたのか、大丈夫だと額に何度も口付けられる。ゆっくりと身を沈めて行けば、満ち足りたような吐息が耳の傍にかかる。くすぐったくて肩を揺らしたら、体自体が揺れてしまって、少々まずいことになる。思わず耐えきれなくて目の前の肩にかみついてしまったのは、中をきゅっとしめつけてしまったせいだ。うめくような声が聞こえたのは相手も事情は似たようなものということなのか。そうならいいのだけれど。
 あとはもう何度も揺さぶられて、押し出されるように声を上げた記憶がおぼろげにはあるのだけれど、次に目覚めた時、本当に夢のようにおぼろげな、微かな記憶しかエドには残っていなかった。
「ずっとそばにいる」と誓われたような気もしたのだけれど、それも夢かもしれない。

 ひんやりとした風を感じて、エドは目を開けた。建物の陰のようだったが、はっきりとはしない。
「目が覚めたか」
 うん、と頷きそうになって、はっとした。どこかけだるげなような相手の声。覚えている限りの先ほどのことが脳裏に鮮やかによみがえり(最後の方はあまりよく覚えていないが)、エドは身を固くした。顔を上げるのが怖い。というより気まずい。だが、相手はまるでそんなエドの心を読んだように、くすくす笑いながら頭を撫でて、エド、と優しく繰り返す。誘惑に勝つのは難しいことで、エドはあまり持ちこたえることができなかった。



 都で大きな地震があったことにアルが気づいたのは、そこへ向かう途上でのことだった。
 だが、彼にはそれが地震でないことがわかっていた。教えられたのだ、彼の供となったジンたちに。
「あれはまた…派手にやったわね…」
 ため息をついて、人の姿をしていたのならきっと額を押えていたのに違いない様子でリザがいうのを、ジャンは対照的に、口笛でも吹きたそうな様子で同意した。
 つまりは彼らの主たる、イフリートが関わっているのだろう。
 これではますます王による魔導師、呪い師及び錬金術師の駆り出しはやまないばかりか拍車がかかるのではないか、とアルもまた頭痛を感じた。やはり寝込んでいる場合ではなかったのかもしれない。
 しかし、それでも一応はと王都に入ってみれば、事情はいくらか異なっていた。それもいい方向にだ。
 ――国王は、廷臣たちによる王都の結界強化を勅令によりやめさせた。つまりは魔導師達の緊急招集も中止になったということである。
 結果としてアルの望んだ通りにはなったのだが、なんだか釈然としなくて、アルはしばし途方に暮れた。そして、一瞬気が緩んでしまったらしく、巡検使の腕輪が役人の目にとまり、おおこれはこれは、となぜか王宮に担ぎ込まれてしまったのだ。これはまずい、と当初そうやって乗り込もうとしていたことも忘れ彼は大いに焦った。しかも、何を思ったか、面白がった国王が謁見すると言い出して、本気で倒れそうになった。ボクは堅実派のはずなのにと何度胸の内繰り返しても今はむなしくなるだけだった。

 そうして相対した隻眼の国王は、どこか懐かしそうな顔をアルに向けてきた。アルとしては気が気でなかったけれども。
「…その腕輪は」
 きた、とアルは思った。偽物だとばれた、と。
 だが、国王の言葉は予想とは違うものだった。
「かつて冒険王が作った巡検使の腕輪、その空位のふたつ、そのうちのひとつだな」
「…は、」
 アルはぽかんとした顔をした。偽物だと母は言っていた、父が作り出したのだと。だが、とふと少年は考える。狼のジンは、彼の父を金の魔法使いと呼んだ。もしかしたら偽物だというのも嘘なのかもしれない…?
「ひとつは焔の魔神に、もうひとつは金の魔法使いに。君は、金の魔法使いの子孫なのかね」
「………えぇ、…は、はい」
 アルは勢いにのまれて頷いた。ジャンを信じるなら嘘ではない。
「かつて冒険王は――、友である焔の魔神に友情の証として、魔神が眠りについた以後の助力を与えた金の魔法使いに尊敬の証として腕輪を贈ったといわれる。魔法使いの腕輪は失われたものだとばかり思っていたが…」
 ジンならば長い寿命を持つ。ゆえにイフリートが失わなければ腕輪も失われないが、魔法使いは人間のはずだった。いずれ散逸してしまったものと誰もが思っていたのだと王は語る。アルは、ただ呆然とその話を聞いていた。
 もはやどこから信じていいか分からないことが多すぎて、もうなんだかどうでもいいような気分になっていたのだ。

 結局、腕輪が本物だと証され、これからもこの国のあらゆることを見ていてほしい、必要とあらばその場で正してくれ、とまで言われ、本来の目的とは全く違う結果をもってアルは都を後にした。
「そういえば、イフリート、いなかったですね」
 てっきり派手に暴れたというから何か手掛かりでもあるかと思ったら、何の手がかりもなかった。だが眷族たちは特に気にもならないらしく、そんなものよ、いつも、とあっさり流された。いいのだろうかと思うが、別にいいらしい。用事があれば当のイフリートが所構わず呼びつけるらしく、呼ばれないということは、逆に今は邪魔だということなのだと。
 それはまた随分わがままなと思ったアルだが、そう言われては仕方がない。それに、まずは結果を持ち帰って幼馴染や母親を安心させるのが先だった。ついでに父親を問い詰めるのも忘れてはいけない。彼には随分隠し事をされていたのだ。
「まあ、兄さんと仲良くやってくれてるなら、それでかまわないんですけどね、ボクは」
 肩をすくめた弟であるが、仲良く、の範疇は当然友人としてのそれを想定していた。だからそれを超えて「仲良く」なってしまった兄とそのジンを目にした時には「今すぐ元の場所に封印して来て兄さん」と強く迫ることになるのだが、今はまだそんなことは知らないままにいた。結局長く続く平穏でもなかったが。



 それから二十年に少し欠けるくらい、隻眼の国王の治世は続いた。贈られた諡は英雄王。国を襲ったジンにも豪胆に対処したことから捧げられた号だった。
 その間も、それ以降も、国を越えてそれこそ世界中のあちこちで金髪の少年と黒髪の男の組み合わせが小さな、時には大きな騒ぎを起こし続ける。偶然に行きあった人々はみな、彼らが実に楽しそうに旅をしていたと語る。
 だがそれもある時を境にぱたりと噂は途絶えることになる。死んでしまったのかと誰もが思ったが、かつて冒険王と呼ばれた男の生まれた街に住む人々だけは知っている。
 長く帰らなかった錬金術師の息子が帰ってきた時黒髪の男を連れていたこと、彼は生粋の魔法使いだったことを。彼らは数年を街で過ごした後、沙漠に行くといってそれきり戻らなかった。しかし家族は誰も心配している様子はなく、会っている様子もないのに「元気でやっていますから」と語るのが常だった。


「ねえ、こっちで本当にあってるの?!」
 幼い声が問いかければ、あってるよ、と陽気な声。しかし返事を返したのは人間ではなく、狼だ。普通の人間ならすくんでしまうのだろうが、問いかけた子供はそんなこともないようで、一途に前を見た。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ