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Hello, Again1

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「理由は色々あるんだ。大将くらいの機動力のやつがいないとか、軍を動かすのは大げさすぎるとか、第一准将自身が護衛だって最低限しかつけなかったくらいで…、あの人は変なところで真面目だから」
 嘆息めいた一言に、エドワードの緊張は不意にほぐれた。何となく頷けるものがあったから。
「確かに。あいつ、妙な所で真面目だよな」
「だろ? わかるか?」
「うん」
 何となく通じ合うものがあって笑い合えば、エドワードの中の逡巡は綺麗に消えていた。
「様子見に行くだけでいいのか?」
「行ってくれるのか?」
「いいよ、旅のついで寄るんだったらあいつの考えも邪魔しないだろ? 偶然一緒になったんだったら、文句言われる筋合いねえしさ」
 悪戯っぽく片目をつぶって見せるエドワードに、ハボックは安堵の表情で「ありがてえ」と答える。よしてくれよ、と苦笑してエドワードは首を振った。
「オレが行きたい。それでいいじゃん。そんで、行きたいと思った所に准将がいた。…見てくるよ。ただの視察なら危ないことなんかねえだろうけど、いくらなんでもさ」
「ああ、…そうだな」
 実際、ハボックにしろホークアイにしろ、一番危ぶんでいるのは街そのものの危険性ではないのだ。そういう危険な所に頑として譲らずに行こうとしてしまうロイの精神状態をこそ一番案じている。だからこその苦肉の策だった。もう、これでエドワードが駄目だったらそれこそ他の手段が思いつかないというのが現状なのである。
 照れくさそうに笑う青年に、ハボックは賭ける。ロイを引き戻してくれることを。
「じゃあ、その街のこと教えてくれるか? 名前とか、…すぐに向かうよ」
「いいのか」
「だって、今視察に行ってるんだろ? 早く行かなきゃ追いつかねえじゃん」
 さも当然という顔で言うエドワードに、頼んでおいてなんだが、とハボックは苦笑してしまう。この青年もまた、ロイを放っておけないうちの一人であるらしい。
 案外両想いなんじゃないですか、とは胸の内ロイに語りかける台詞である。もっと難航すると思っていたのだ、ハボックも。それがあんまりあっさりエドワードが了承してくれたものだから、ハボックとしても意外な気持ちがしている。
「ああ、じゃ、こっち見てくれ。地図渡すわ」
「おう」
 最新の地図を取り出しながら説明すれば、エドワードは至極真面目な顔で頷きを繰り返しながら聞いていた。不器用さというか、意地っ張りの具合はいい勝負の二人だとハボックは内心目を細めた。



 街の近くまでは列車で行って、その後は徒歩しか手段がないと言われていたので、最寄りの駅で携帯食料と水を買い込んでエドワードは先を急いだ。せめて乗合でもあればよかったのだが、行き先はそれほど危険な所だということだろう。近くを通るだけでも害があるような。
「普通に行って入れんだかな…」
 エドワードがハボックに会ったのが既にロイが出発した日だった。すぐに追いかけてはいるが、最低でも一日の空白ができてしまうのは仕方がないことだった。
 こんな時特権も錬金術もない今のエドワードの武器は体力と経験のみで、ただ黙々と歩くしかなかった。後悔するほどではないが、あったら便利だったな、とちらっと思ってしまったのもきっと仕方がないことだ。それだけ、気がせいてもいたのだろう。
「……」
 あたりは何もなかった。砂漠まではいかないが、荒涼とした土地が広がっている。これが昔からそうなのか、それとも未だに内戦の爪痕が残されたままだからなのかは、にわかには判別がつかない。だが後者だったとして、こういったものと始終向き合うロイの精神状態を思うとさすがに案じられないでもなかった。確かに彼にとってこれは向きあうべきものかもしれないが、間違った感情だとしても、それでも知らない誰かよりロイをまず案じてしまうのは無理のないことだ。エドワードの知っているロイは内戦の間のロイではなく、それを悔やんでいる大人の姿だけだったから。
 野宿の準備をしながら、エドワードは思う。壊すことのあっけなさと、作り直すことの難しさを。そして、大事なものはいつも錬金術でだって取り戻すことができなかったことを。
「……無理してなきゃいいけど」
 身を丸めながら、エドワードは薄く目を閉じた。そして、てのひらを唇につける。

『きみの手は、ひとを護る手になった』

 セントラルで再会した時、ロイはそんなことを言った。誰を、という部分を彼ははっきり明言しなかった。明言しないでくれてよかったと何となく今思うのは、誰、と決められないことでエドワードが自由に考えられるからかもしれない。
「…………、あんたも、護るよ」
 聞こえない誓いだからこそエドワードは真摯に口にした。ロイが望まなくてもかまわない。ふと脳裏に故郷の大事な幼馴染の姿が浮かんだが、許してくれるよな、と頷いた。
 もっとよく考えれば、それが親愛としては過ぎた情だということがわかったのだろうけれど、エドワードにはそんなこと考えも及ばなかった。ただ、一途にロイのことを考えて、それだけで。それがどういうことかなんて、ちっとも考えていなかったのだ。それが、もしかしたら誰かを泣かせることになるかもしれないだなんて、そんなことは欠片も。
 ――ただその時はロイに会いたい一心だった。本当にそれだけで。



「…思い出すな、なんだか」
 普通将軍クラスの人間の視察なら、それなりの宿が用意されるものだが、今回はそうも言っていられなかった。屋根があるだけましという状態で、護衛もロイも区別なく外で野戦食のような食事を取る。だがロイは文句を言うどころか、何となく楽しそうに笑ったものだから、ホークアイとしても溜息をつくしかなかった。
「何をです」
「昔を、すこし」
 どこか遠いところを見るような視線を読んで、ホークアイはそっと、もう一度溜息をつく。
 結局ハボックからはエドワードが見つかったと連絡を受け取らないまま視察へ来てしまった。彼のことだから捜してはくれているだろうし何とかもするだろうが、果たして間にあうのかどうか。
 視察の予定は今日から一週間。とりあえず今日のところはつつがなく終えたが、明日から避難所の選定や工事の導入のためにもっと踏み込んだ現地視察を行えば、格段に危険度は上がるだろう。しかもロイは後ろに引っ込んでいるということができない。
 苦労を予感しながらも、嫌だとは思っていないのだから、ホークアイも結局はロイに慣らされてしまったのだろう。
「そうですね。…懐かしい、なんて、思う日が来るとは思わなかったのですが。あの頃は」
 静かにそう返したら、ロイはただ目を細めた。同じ心境だ、ということだろう。
 確かに思いもしなかった。痛みだけがあると思っていたのに、どうやら時間はそれさえも昇華してしまったのかもしれない。もしかしたら、これが人間の強さなのかとも思う。
「…目をそらしても現実はなくならないんだと言われている気がする」
 嘆息のような、けれどもそれにしては飄々とした口調に、ホークアイはロイを見る。彼はただ空を見ていた。そこには明るい月が輝いていた。明日も天気がいいのだろうか。
「逃げていたつもりはないんだが、…まだまだ、先は長いんだな」
「…そうですね」
作品名:Hello, Again1 作家名:スサ