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Hello, Again1

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 そのエドワードは今、どこにいるともしれない。調べようと思えばすぐにも見つかるのかもしれないけれど、調べる理由がなかった。会えば懐かしく思うだろうけれど、どうしても会わなければいけないその必然性がない。
「エドワードくん、どこにいるのかしら」
「は? 大将っすか?」
 不意に切り替わった話題に、ハボックは瞬きする。それに悪戯っぽく笑って、ホークアイは頷く。
「私が思うに、あの人を笑わせることができるのは彼くらいのものよ」
「…あー…、まあ、なんかわかるような気はしますけど」
 過去のあの二人の様子を思い出しながら、ハボックも苦笑まじり頷いた。まったく大人げない人だ、と毎度思いながら彼らの掛け合いをハボックも見ていたが、ああやってロイをむきにさせたり笑わせたりしたのは、エドワードの他にはヒューズくらいしか見たことがない気がする。そしてヒューズは既になく、エドワードは生きているけれども会うことがない。
 …勿論、ふたりは、彼らが少し前にセントラルで再会していたことなどは知らない。しかしそれは知らなかったが、ロイがエドワードと一緒に撮った写真を手帳に挟んでいることは知っていた。ホークアイは執務室で見かけて、ハボックは現像を頼まれた時に。
「…大将も、元気にしてますかねえ」
 ハボックは懐かしそうに目を細めて呟いた。エドワードとは久しく会っていないのだ。
「そうね。彼のことだから、心配はいらないのかもしれないけど」
 ホークアイは短くした髪の、サイドを耳にかきあげながらそっと呟いた。そうだ。心配に思うというのは、大人の側の感傷のようなものなのだ。こと彼に関しては。
「そうっすね。あー、背が伸びてりゃいいですけど」
「あら、伸びてるんじゃないかしら? 彼のお父さん、背が高かったもの」
「そりゃあいいや、あいつも背のこと言われて切れない限りは冷静ですから」
「そうね」
 かつての「チビ」「豆」に対する過剰な反応を思い出し、二人は笑った。
「お、もしかして俺お邪魔ですかね?」
 と、そのタイミングで二人の席に男がひとりやってきた。相変わらずふくよかな腹部の持ち主だ。
「そうだな、帰れ帰れ」
 笑って応じるハボックに、でも腹が減っちまったんだ、なんか食ってからでいいか、とブレダが答えれば、ホークアイが笑いながらメニューを示してくれる。
 三人は、ここにフュリーやファルマンを時に交えつつ、こうして顔を合わせることがたまにあった。
「いやあ、まいりました、帰り際にとっつかまっちまいまして」
「残業か」
「ああ、まあそんなとこだ。…大尉、早いですね。准将はまだ残ってるみたいでしたけど」
 ホークアイは苦笑した。
「今日必要な分はもう終わっているのよ。…帰りたくないんじゃないかしら。私が残業させているわけではないわよ?」
 ブレダとハボックは苦笑した。
「いや、お守がなくてもちゃんと仕事するなんてね。大佐、…じゃなかった、准将はいつからそんな真面目になっちまったんだろう」
「大人になったんじゃないかしら」
「ずいぶん遅い目覚めですね」
 ブレダはそう言った後、不意に笑いをひっこめた。
「…あの人ぁ、大丈夫なんですかね」
「…どういうこと?」
 さきほどハボックが口にしたのと同じような台詞だったが、今も軍内部に籍を置くブレダが言うことだから、余計に重みがあった。つまり、身近な人間からみてもやはり「大丈夫ではない」ということなのだ。
「…なんか、見てる方がつらいっていうか。もっと無茶苦茶言ったりあほなことしたりしててくれた方がかえって安心っていうかですね」
 ブレダの台詞にホークアイは苦笑するしかない。
「…同感、ね」
 三人は何となくしんみりと黙り込む。
 彼らの目的は結局、ロイについていくことだ。彼の望みをかなえるために、支えること。それはつまり、口や態度でわかりやすいものではなかったとしても、心の根っこの部分ではロイ・マスタングという人物に惚れ切っているということに他ならない。
 だから、彼が昇進する、あるいは望んだ采配を振るう、ということだけが望みとはいえないのである。時に子供っぽい顔をのぞかせる男だった。無茶なことを言ったり、拗ねたり、いじけたり、そんな人間的な面も多く持っている男だったのだ。だからついていこうと思った。彼のために何かしてやりたいと思う気持ちは、もう理屈ではない。
 けれど彼は変ってしまった。本質的には変わっていないはずだが、何かが変わってしまった。一番変わったのはヒューズが死んだ時。そして、次がエドワードが軍を去った時。エドワードによって一度は「戻ってきた」はずの彼が、もう一度姿を消してしまった。そんな風にホークアイは感じていた。最初の時はエドワードが戻してくれた。では次は?
「会いに行けばいいのに」
 ぽつりとホークアイは呟いた。
「…誰にっすか?」
 ブレダの問いに、ハボックが「大将だよ」と答えれば、ブレダは意外にもあまり驚かなかった。彼もまたホークアイと似たようなことを考えていたのかもしれない。
「…でも、妙な所で意地っ張りですからねえ…」
 最後に現れたブレダはまだ喉が渇いているのだろう、運ばれてきたビールを一気にあおった。
「そうだな、そういうとこ似てたよな、あの二人」
 ハボックが懐かしそうに相槌を打って次をオーダーする。ブレダはテーブルの上のサラミをつまんで、だな、と腹をゆすった。
「変なとこではりあったりしてな、大人げなかった、いやほんとに」
 ホークアイは口元を押さえる。本当のその通りだったと思いだしていたから。そして、ふと気付く。
「…偶然会うのなら、文句はないはずよね」
「へ? そりゃあまあ、そうでしょう。嫌な顔くらいはするかもしれませんけどね、会っちまえばそんなの、すぐにじゃれつくんじゃないですか」
「ブレダ中尉。頼まれてくれないかしら」
「…聞きましょう」
「ハボック少尉、あなたも」
「なんか、ブレダに差つけられたみたいでひっかかるなー呼び名が…やっぱりジャンって呼んでくれません?」
 冗談に紛らわせて提案するハボックに、ホークアイはにっこり微笑んだ。
「ええ、お願いを聞いてくれるならね、ジャン」
「………イエス・マム」
 まさかすんなり呼び返されるとも思わなかったので、ハボックは呆気に取られ、ついつい自分こそが軍式に敬礼をつけて返してしまった。そんなハボックにくすりと笑い、ホークアイは続ける。
「次のあの人の視察の予定、ちょっとひっかかっているのよ」
「…変な予定なんですか?」
 ハボックの当然の疑問には、腕組みしたブレダが答える。
「…大尉が仰るのはわかる気がします。ひっかかるというか…急すぎやしないかとは思いますね、自分も。…ハボ、耳かせ」
「俺は大尉に耳打ちされたいなぁ…」
「うるせえ、いいか、黙って聞けよ?」
 実際に耳元に囁くということはさすがになかったが、ブレダが落とした声で語ったのは、ロイの次の視察予定地が現状最も危険な地域として指定されているエリアだということだった。
「…んっだ、それ…あぶねえじゃねえか」
 さすがに息をのんだハボックに、ホークアイが渋い顔で告げる。
「――でも、あの人が決めたの」
作品名:Hello, Again1 作家名:スサ