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Hello, Again1

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 ホークアイの進言も聞き入れなかったのだとしたら、かなり重症だ。ハボックは助けを求めるようにブレダを見た。ブレダもまた渋い顔だ。重苦しい沈黙が落ちる。
「…なんだってまた、そんなとこ行こうとしてんです、あの人は」
 仕方なしハボックが口を開いた。いつまでもこうしていても埒が明かない。ちょうどブレダの二杯目を持ってきたウェイトレスも怪訝そうだった。愛想良く受け取ってすぐにウェイトレスを追い返すと、ハボックはブレダの前に二杯目のジョッキを置く。
「おまえより一層太るからビールはほどほどにしろよ」
「余計な世話だよ」
 嫌そうな顔をするブレダは放って、ハボックはホークアイに向き直る。その顔はもう真剣なものになっていた。
「イシュヴァールの…、」
 ハボックは息をのむ。ホークアイの声のトーンが下がる。
「…最も強硬な、グループがいるのよ」
「そんなとこ、だって…、待ってください、ほんとですか」
 ロイは対イシュヴァール政策の責任者として着実な成果を挙げ、始めている。それは確かにまだ大きなものとはいえないが、今まで弾圧してきた国が一転して彼らに歩み寄りを見せているだけでも大きな変化だったし、それをかつての「イシュヴァールの英雄」が率先してやることに意義があった。
 勿論、売名だと謗るものもいる。だがロイは全く取り合わなかった。いちいち取り合っていられないというのもあっただろうが、何を言われても、石を投げられても向かい合うと決めたのだろう。
 だがそれにしたって無謀が過ぎる。
「衛生状態が悪くて、ひどい状態だと、援助をとマルコー医師から連絡があったのよ。…近くの司令部から物資を送ろうにも未だに和解に応じないグループがいて近づけない、でも、とにかく事態は一刻を争う」
「マルコー先生か…、…先生は現地にいるんですか?」
「ええ。…それがあの人の望みだったし。まったく、頑固な人ばっかりね、世の中」
 ホークアイが珍しく愚痴のように言って肩をすくめた。
「…それで、大佐…じゃなかった、准将が?」
 ホークアイとブレダは頷いた。
「…街の名前を教えてください。俺もわかることは探りますから、それと、」
 それと? と視線で尋ねるホークアイに、ハボックは得意げな顔で笑った。
「大将の居場所を探します。…そういう所で偶然に会ったら嫌でも協力しないわけにいかないし、…素直になれるでしょ、あの意地っ張り二人でも。そういうこと、言いたかったんですよね?」
 確信をもったハボックの台詞に、ホークアイは瞬きした後ふっと笑った。
「そうね。正解よ、ジャン」
「……やっぱり、少尉でいいです」
 今さら照れくさくなったのか困った顔をするハボックに、ホークアイは楽しげに笑った。
「あら。遠慮しなくてもいいのに。ねえ、ブレダ中尉?」
「そうですねえ、何しろもう軍人じゃないですしねえ、いつまでも階級で呼ぶのも変ですしねえ、ハボックさん、て感じでもないし」
 にやにや笑いながらつつくブレダは、この件に関して徹底的に面白がることに決めたらしい。自分で言いだしたこととはいえ照れくさいな、と思いつつ、ハボックはエドワードを探す算段を練り始めていた。



 エドワードからの連絡はさっぱりなかったが、便りがないのは無事な証拠、とウィンリィは思い切っていた。実際、昔だってそうそう連絡なんてしてこなかったのだ。いまさらまめになったら、かえって疑ってしまう。後ろ暗いことでもあるのかと。
「…あ、」
 壁の写真は増える一方だ。子供の頃の写真に加えて、あの兄弟が生身に戻った時のものや時たま旅先から送ってくるものまで、増えていって減ることはない。この先もきっとそうだろうと思うと、それはとても幸せなことのように思えた。
 そのうちの一枚がはらりと壁から落ちてしまったので、ウィンリィは拾い上げる。それは、ある意味珍しい一枚だった。
「……、この人、あいつらの恩人なのよね」
 それはかつて、エドワードがロイに請われて撮った一枚の写真。椅子に座るエドワードの隣にエドワードが立っている一枚だった。エドワードは快活に笑い、ロイは落ち着いた顔でレンズを向いている。だが、写真で見てもどことなく寂しげに見えるのは気のせいなのだろうか。ウィンリィはしばらくそれを見ていた後、また元の場所に戻した。いつだったかエドワードが帰ってきた時荷物から落とした写真は、焼き増しされたものだという。記念にともらってきたのだと、「あんた写真落としてったでしょ」と電話で話した時言っていた。今度帰る時まで預かっておいてほしいと言われたので、他の写真と並べて飾ってある。嫌がるかもしれないが、落とす方が悪い。
 イシュヴァールの英雄。
 ウィンリィにとって彼は、エドワードを連れて行ってしまう人だった。恐ろしい軍の中に、さらっていく人。顔立ちの整った人だと思ったし、特に怖い目にあわされたわけではないけれど、黒い髪も黒い眼も黒いコートも、子供心にまるで悪いものにしか思えなかった。おまけに、彼はエドワードを連れて行ってしまったし。
 けれど、エドワードは帰ってきた。腕を元に戻して、元気な姿でリゼンブールに帰ってきた。軍を離れて。つまり、彼はエドワードをさらっていったかもしれないが、きちんと元の場所へ返してくれたということだ。
 今ならわかる。莫大な研究資金があったとはいえ、そしていくら並みの子供よりたくましいとはいえ、子供二人で旅をするのは容易なことではなかったこと、それをきっと、あの大人が陰ながら支えてくれていたのではないかということが。ウィンリィまで気遣ってくれたヒューズはもともとロイの親友だったのだし、結局はロイの気遣いが回りまわってヒューズの気遣いになったのだと今ならわかる。
 悪いひとだなんて思ってごめんなさい、とウィンリィは写真に詫びる。彼は結局とんでもなくいいひとだったのだ。
「でも、…」
 不意にウィンリィは眉をひそめた。でも、どんなにいいひとだったとしても、今どんなに大変だったとしても、エドワードはやっぱり二度と彼に渡したくないと思ってしまった。馬鹿げた考えだけれど、何かが引っかかっていたのだろう。写真の中のロイと視線を合わせながら、ウィンリィはごめんなさいと呟いた。
「エドは…もう、自由なのよね…?」
 テーブルに投げ出した新聞にはマスタング准将の記事が載っていた。新聞は彼が困難な状況の中でイシュヴァールの急先鋒と和解の場を設けて、次々に施策へ反映させていることを記していた。

 エドワードは一度旅から戻った後、またふらりと出かけてしまった。アルフォンスより先に帰ってしまったので、アルが帰ってこないならもう少し回ってくるわ、と変なところで兄弟仲良しぶりを発揮した結果であるが、なんだかんだで、単純にまだ落ち着きたくないのでは、とウィンリィなどは思ったものだ。そして入れ違いのようにアルフォンスが帰ってきた時にはエドワードはどこぞの旅の空の下で、この話に心底呆れていた。といって、呆れながらも「兄さんだからなあ」と笑ってもいたのだが。結局そうなのだ。誰もエドワードの自由さに縄や鈴をつけることなど出来ない。
「…ウィンリィなら、縄つけるかと思ったんだけどなあ」
作品名:Hello, Again1 作家名:スサ