三ムソ詰め合わせ
もしもの過程をいくつ重ねたところで、意味のないことだと分かっている。それでも、こんな風に無防備な姿を見ていると、浮かんでくるのはそんなどうしようもない空想だけだった。
「いくら共闘してるからといって、神経図太いにもほどがあるわ」
肩貸して下さい。半刻ほどしたら、起こして。
色の薄い眉間に、わずかにしわが寄っている。夢見が悪いのだろうかと考えて、男のごつい肩など枕にしているから寝づらいだけだと思い直した。別のところに移動させてやろうとか、そこまで親切にしてやる義理は、今のところ夏候惇にはない。
だが、恐らく人体でもっとも重い個所の一つであろう頭部を意識のないまま半ば強制的に圧し掛かられて、いくら肩が重かろうとも、叩き起こす気にもなれないこともまた事実だった。
瞼をぴくりとも動かさずに眠るさまは、彼がよほど身体的にも精神的にも疲労しているのだろうことを思わせる。わずかに上下する薄い筋肉の付いた胸だけが、生きている証のようだった。
ろう人形のよう、とまでいかずとも、青い血管の浮かぶ肌は寒々しさを覚えるほどだ。けして華奢とはいえない身体つきをしているはずなのに、妙に頼りなさを感じるのはこのせいかと独り奇妙な納得をした。こういうときに限って、騒がしい連中は揃って誰もいない。心の中だけで盛大に舌打ちをした。
無理をおして戦場に出ていることに、気付かないほどこいつの主君は呑気なのか。
ふと、ほんの二言三言しか交わしていない仁君とやらに対して苛立ちを感じた。ああ、俺は自分のことを棚に上げて何を。かの乱世の奸雄のためならば何物をも惜しまないのは、己とて同じだろうに。
こいつと俺は恐らく同じ位置に立っている。鏡合わせのように。遠く感じるのは当たり前の話だ。
それなのに、今ごく近くに感じる熱がそう遠くもしないうちに離れていくことを、心のどこかが厭っている。
もしもの答え探しにかける余裕なぞ、己にはない。
だというのに勝手に渦巻く思考が忌々しい!
あと少しだ。あとほんの少し耐えればいい。
右肩に感じる熱も重さも、いくらもしないうちに呆気なく消える運命なのだから。