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永遠に失われしもの 第13章

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葬儀屋の泊まるクイリナーレホテルの
 屋上に立つセバスチャンは、
 ラウル刑事が馬車を降り、
 ホテルに入るのを確認すると、
 すぐに、疾走し始めた。

 天幕に包んだシエルを夜風に晒さない様、
 懐深く抱きながらローマの街を飛び伝い、
 アウレリアヌス城壁を出て、
 しばらく行った場所で立ち止まり、
 口笛を軽く吹く。
 
 遠くから彼にしか聞こえない、
 飛竜のいななきと共に、恐ろしい速さで
 炎の馬車が近づいた。
 すっと手をかざして、
 青鹿毛の馬と黒檀の馬車に替えると、
 シエルを優しく馬車に乗せる。

 御者席に飛び乗り、馬に一鞭をくれて、
 マントヴァの町屋敷へと向かった。


 ラウル刑事の夜中の訪問は気になったが、
 もう距離が離れすぎていて、
 その会話を聞き取ることは、
 さすがにセバスチャンでも不可能だ。
 
 マントヴァの街を囲む、
 三つの湖の内の一つ、
 インフェリオーレ湖が見えてくる。
 夜の闇の中、そこは真っ黒なぽっかりと
 開いた、深く大きな穴のようだ。
 

 サンロレンツォのロトンダの近くにある
 町屋敷にセバスチャンが来るのは、
 35年ぶりであった。

 使用人一人もう残ってはいない屋敷の、
 その死んだように静まり返った正門を
 開け、馬車で玄関に乗りつける。

 エントランスホールを抜け、
 サロンのカウチソファーにシエルを、
 横たえて言った。


「しばらくお待ち頂けますか?
 いま御召し物をご用意しますので」


 セバスチャンは二階へと消えて行った。


(この屋敷の中を、僕は知っている)

(夏の光景)

***************

 また、セバスチャンに似た、少年が、
 このソファーに同じ様に横たわっている。
 背は僕よりもう少し高いが、痩せている。
 青白い、細すぎる手と肢。
 
 同じ紅茶色の瞳。

 だが、同じ顔なのに、
 年齢の違い以上に感じる違和感。
 今のあいつの、考えの読めない目とは、
 また違う種類の無表情・無感情な眼差し。

 その目の表情の違いが、
 この違和感を感じさせているんだろうか?

 見ていて見ていないようなその瞳の先には
 二十台後半とおぼしき、男が立っている。
 金髪のその男はじっと少年を眺めている。

 手に持っているのは、絵筆?
 画家か?いや違うだろう。
 服装からして、貴族だ。
 絵を描くのも、
 この男の道楽の一つなのだろう。


 男が少年に近づき、少年の漆黒の髪を片手でさわりながら、もう一方の手で、
 そのシャツのボタンに手をかける。

 突然ぴしゃりとその手を叩く音。

 何の表情も浮かべないまま、
 少年はその手を叩き払い退ける。

 男は叩かれ、驚いた表情をしながらも、
 すぐさま少年の後ろ髪を強く引っ張り、
 少年に口吻した。

(この少年は誰なんだ?)


******************

「お待たせしました」


 セバスチャンはシエルに服を丁寧に、
 着せ、ボタンを一つ一つはめていく。

 最後にキュっとリボンタイを結ぶと、
 シエルの閉じられた瞼を一瞥して、また、
 抱きかかえた。

 その足元には幾つかのトランクがあり、
 シエルにとって、
 まるで揺り籠のようであったものも
 含まれていた。