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永遠に失われしもの 第13章

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 それは宙に浮かんでるような、
 深海の底に沈んでいるような感覚だった。


 自分にとっての過去の悪夢が、
 目の前で再現されている。
 心の半分が復讐を誓ったあの時のように、
 怒りでたぎっている。
 だが心の半分は、まさに死んでいるとしか
 言いようのない感覚を味わっていた。


 心の半分は、目の前に迫る司祭姿の男の、
 汗、吐息、その男の熱い体温に、
 全ての血管が逆流するほどの
 憎しみと嫌悪と憤怒を感じ、
 叫んでいる。セバスチャン!殺せ!と。

 と、同時に、
 まるで地下の教会のごく高い場所から
 望遠鏡で覗いて見ているかのように

 昏睡状態の自分を数々の手が押さえつけ、
 司祭が膝を持ち抱え、
 体に圧し掛かろうとするのが見えるが、
 何も感じない。


 そして布にくるまれ、
 セバスチャンの燕尾服に頬を当てながら、
 安堵とここから一刻も早く立ち去りたい
 衝動に駆られている自分と、

 舞い落ちる黒い羽と、血しぶきと
 なだれ落ちるように、倒れる黒いローブと
 そのローブから流れ出た
 茶色の長い髪の少女とを、
 網膜に焼き付けている自分。



 目の前にセバスチャンがいる。
 相変わらず、何を考えているか
 わからない目で僕を見つめている。


 (ここはどこだろう)


 唇に触れられて初めて、僕は
 とても飢えていることに気がつく。


 (何も見えない、暗闇の中)


 セバスチャンの血を唇に感じる。
 舐めたいのに、
 舌は重石のように動かない。


 (ああ、これは前にも見た光景だ)


 血が喉に溜まっていく、
 不快だ・・
 吐き出してしまいたい


 (トランシー家の紅茶館の中?)


 セバスチャンの舌が、時折喉をくすぐる。
 こいつが吸い取ってくれるおかげで、
 少しは楽になったが、くすぐっているのは
 絶対わざとだろう?
 ・・・・
 その舌を噛み切ってやりたい。


 (トランクの中?)


 首筋に感じる、セバスチャンの湿った舌。
 それと同時にそこに感じていた痛みも
 すっと溶けていくように消えていく。

 
 (ああ、そうだ。
  ヤツはここから出るなと
  僕に命じたのだ。

  お前が僕に命令するな!)


 こいつが何の目的で、
 こんな事をしているかわかってはいても、
 無性に腹が立つ。

 一体全体なんだって、
 こういやらしく
 舐めなきゃいけないんだ??


 (どこかを動いている、空間を時間を?
  旅をしているのか?)


 次は、腕か・・
 まだ首よりははるかにましだ。
 だけど、絡みつくように僕を見つめるな!
 うっとおしい・・


 (見たことの無い城・・陰気な城・・)


 やめ・・・やめろ・・
 どうして僕の足を持ち上げるんだっ!
 他にやり方はないのか??
 とりあえず・・
 そこにある、赤い布でも僕にかけろ!!


 (美しい貴婦人が泣いている・・)

 
 いくら毎日身体を洗わせているとはいえ、
 この格好は幾らなんでも・・・
 恥ずかしすぎるだろっ!


 (これは誰だ?・・
  セバスチャンと・・同じ顔をした・・
  でも、僕と同じくらいの・・
  
  ・・いやもっと若い・・)
 
 

 っていうか、まず枷を外せっ!
 

 そして・・・
 絶対に、この恥辱と同じくらいのものを
 お前に与えてやるからな・・
 ・・・・
 覚悟しとけよっ!