永遠に失われしもの 第13章
「いなくなったじゃ、
済まされないでしょう!」
ウィリアムは死神派遣協会にもどり、
派遣課奥の課長室で怒鳴っていた。
シエルの監視に当たっていた部下は
ウィルに、平謝りしている。
「貴方に謝ってもらったところで、
この事態は収まりません。
大体あの状態で、どうやって
脱走できるというんですかッ!」
これは、上司である自分も、
始末書どころでは済まないだろう。
減給処分はまず必至、
悪ければ降格、謹慎処分だってありえる。
そして内密にするには、
あまりにも事が重大すぎた。
それにしても、
誰かが手引きでもしない限り・・
部下のことは信頼していたし、
どの死神にとっても、害獣に手を貸す、
メリットなぞ、どこにもない。
・・グレル・サトクリフだけは別ですが、
彼は私と一緒に行動していたので、
何か出来たはずもない・・
「ともかく、私は上に報告に行きます。
貴方は報告書を用意してください」
・・まったく・・
アレとその飼い主のお蔭で、
ここまで泥をかぶるとは・・
ウィルは、管理課の自分の机に、
一旦もどるとローマ警察留置場の看守の
シネマティックレコードに関する報告書を
素早く用意して、
それを片手に、上階へと階段を上った。
一時間以上経っても、
ウィルが上層階から戻ってこない中で、
疲れた顔をして派遣課に帰って来た、
グレルは課長室に入って、怒鳴った。
「ウィルはどこよ??
それからアンタ、
何処に目がついてんのよ」
問答無用で部下を殴り、
蹴り飛ばすグレル。
しばらく一方的な暴行が続いた後に、
グレルの背後から、ウィルの声がした。
「やめなさい!グレル・サトクリフ」
「だって!ウィル・・
ちょっとこれ見てよ。
その方が話は早いんだから・・」
グレルは、カバンから今日回収した
沢山のシネマティックレコードの中の、
闇の司祭の物を出し、ウィルに見せた。
「なるほど・・・この人間達が行った
黒ミサのおかげで、ここから召還されて
しまったというわけですか・・」
フィルムに、セバスチャンが現れる。
「アレの手中に戻ってしまった・・と」
「この能無しがッ!
ちゃんと見てれば、召還されかけたとき、
分かったはずよ?
アタシ達は、魂関係のプロなんだからッ」
「過ぎたことを今更、どうのこうの言っても
仕方ありません。
ただ、減給・降格処分は
覚悟しておいてくださいね」
眼鏡の奥から、
無感情な瞳が部下に向けられる。
「ああ・・その目・・クールで素敵ョ・・」
「それからグレル・サトクリフ!
排除命令は、一旦撤回です」
「ええええ??まぁ・・嬉しいけど・・
ガキはやりたかったケレド・・
・・なんで???」
「狩れない事情ができました。
私も反対はしたのですが、上の命令です」
「一度排除命令が出されたのに、
撤回されるなんて、
そんなコト今まであったの?」
「ありません、
少なくとも私の知る限りでは」
「その事情って・・教えてくれないワケ?」
「詳しく言うことはできませんが・・
人間の魂の回収と同じことですよ」
「?????
世界を変える、云々ってあれ?」
「そうです」
「じゃあ、彼らを排除すると
世界が変わってしまうとでも言うの?」
「逆です」
「んモウ~~~~全然わかんッない!」
「貴方に意味がわからなくてもいい、
ただ、上からの命令を実行すればいい」
「撤回されたなら、
やることなんて無いじゃない」
「私は排除命令が撤回されたと言いました。
本日この時間より、
害獣およびその飼い主の監視命令が
下りました。
私と貴方、およびチームは一時も
アレらから目を離すことのないように!」
「無理よ~寝れないじゃない・・
セバスチャン達は寝ないで
平気なのョ??」
「ローテーションを明日組みます。
私は帰ってすぐ寝ますので、
グレル・サトクリフ!
貴方は、彼らの居場所を探し出して、
マークするように」
「ひぃぃぃぃぃ~~~」
作品名:永遠に失われしもの 第13章 作家名:くろ