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MY SWEET HOME

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 悶々と眠れない夜を過ごしたグラハムは、寝不足で出る欠伸をかみ殺す。カーテンもない部屋は、窓から直接太陽の光を受け入れるのだ。季節は夏から秋へと移り変わる頃。陽が短くなったとはいえ、まだまだ朝日が昇る時刻は早い。
 グラハムはゆっくりと起き上がりながら、そういえば明後日は自分の誕生日だと、秋を感じる気配にふと思い出していた。
「早いな」
「……明るすぎて目が覚めた」
 それは嘘だったが、隣でまだ横たわる男に視線をやりながら、グラハムは答えた。
「そうか。カーテンも必要だな」
 刹那は腹筋だけで起き上がると、すぐにベッドから降りていた。十歳以上年下の若い肉体を持つ彼に、グラハムは少し苦笑する。正直に、羨ましい。
「君の未来も人生も、まるで今日の天気のようだな」
 窓の外の青空に目をやりながら、グラハムはそんなことを口走る。ほとんど無意識で嫌味のつもりはなかった。迷わず自分の道を突き進める刹那の揺るがなさが、ただ眩しかったのだ。
 刹那は部屋を出て行くのをやめ、かけられた言葉に足を止めて振り返った。最初は嫌味でも言われたのかと思いムッとした心も、窓の外を力なく眺める、疲れきったような姿を見た瞬間、そんな感情もどこかに吹き飛んでいた。
 そういう姿を見るために、ここへ呼んだわけではない。もちろん、すぐに成果と効果が現れるとは思わなかったが、これからどれだけの努力を重ねればいいのか、道は険しく長いということを、刹那は自覚したのだ。
「グラハム・エーカー」
「なんだ?」
「朝食は外で食べるから、支度してくれ」
「わかった」
 ベッドの淵から腰をあげ、グラハムは軽く伸びをしている。しなやかそうな身体が反り返り、シャツの裾からチラリと肌が露出するのを見て、刹那は反射的に視線を逸らした。
 好意を持っていると認識したときから、相手のどんなことでも気になるようになった。仕草、言動、表情、趣向といったものまで。それは刹那には不思議な感覚で、自分にもこんな感情があったのかと、表面上はともかく内心ではかなり戸惑っていたのだった。


 アメリカ本土が発祥のハンバーガーチェーン店で朝食を採り、そのまま大型インテリア店まで足を延ばす。
 とりあえず早急に必要なものを買い込もうと、二人で店内を物色していった。
 調理器具や食器が並ぶフロアを眺めながら、グラハムは言う。
「毎日外食では栄養過多だからなぁ。たまには自炊もしたほうがいいだろう」
「アンタは料理もできるのか?」
「簡単なものなら。凝ったものは無理だが……。今のところ暇でやることもないから、レパートリーを増やすのもいいかな」
 真っ白い皿を手に取りながら言うグラハムを見て、本当にそういった日々がずっと続けばいいのにと、刹那は思った。
 戦いに勝利することしか望まなくなった彼が、そこから解放されて、また違う生きる道を見つける。そしてその道が、戦いとは無縁であればあるほどいい。それこそ、料理のレパートリーを増やそうと一生懸命になっているような、そんな生き方をしてくれることが最上だ。
「いつか食べさせてくれ、アンタの手料理を」
 だから将来への希望も込めて、刹那は言った。驚いたように目を見開くグラハムの視線を感じたけれど、刹那はそれに気づかない振りをして、彼が持っていた皿をカートの中へと入れる。
「……それでいいのか? 他にもいろいろあるぞ?」
「アンタが気に入ったなら、それでいいさ」
「なっ」
 カァッと頬を染めるグラハムは、刹那の気持ちにまったく気づいてないわけではないらしい。しかし今は、それだけでよかった。事を急いて、いいことなど何もないのだから。
「後は何がいるんだ?」
 先に歩き出す刹那の後ろを、少し遅れてグラハムがついてくる。頬を薄紅色に染めたまま、ややぶっきらぼうに彼は言った。
「フォークとか、スプーンとか、だ」
「ああ、そうだな。グラスもあったほうがいいか」
 商品の陳列棚に目をやりながら、刹那も何が必要かを考えた。故郷の家はあまり裕福ではなかったけれど、ひと揃えの食器くらいはもちろんあった。
 大皿、小皿、深めの皿、グラス、カップといったものが、どんどんとカートの中へと収められていく。
「こんなものか?」
「そうだな……。あとは調理器具のほうを揃えれば、問題ないんじゃないかな?」
 中を覗き込みながらグラハムは答えた。しかし、そう言いながらもなし崩しに同居が決められていく現状に、頭を抱えたくなってもいた。
 引き返すなら今のうちだ。まだ会計を済ませてない今なら、断りを入れることが可能なのだ。早くそれを刹那に言わなければと思うのに、重い口がなかなか開いてくれなかった。
 どうしてだろう。こんなのは絶対に自分らしくない。こうしたいという意志を貫いてこそが、自分だったはずなのに、刹那の気持ちを無視できないのだ。何故という疑問が、グラハムの意思をも消極的にする。
 すっきりしない感情に支配された心が、知らないうちに溜息をこぼさせていた。
「どうした? 疲れたか?」
 前を行く刹那が振り返ってくる。グラハムは曖昧な笑みを浮かべながら首を振った。
「いや……。なぁ、刹那」
「なんだ?」
「君は自分のことで、ままならないと悩んだことはあるか?」
 少なくともグラハムには初めてのことで、だからそんなことを尋ねてみたくなった。
 刹那は立ち止まり、じっとグラハムの目を見つめてくる。あまり表情の動かない男だけど、このときも無表情に近かった。
「ない、と思う」
「……そうか」
 揺らがない彼らしい返事に、グラハムは「やっぱり」と、肩を落とした。けれど、後に続いた刹那の言葉は、予想外のものであった。
「俺には悩むような時間なんかなかった。悩んでいるうちに一人、また一人と銃弾に倒れていったから、行動するほかに道はなかった。戦う以外にすることなんて何もなかったんだ」
 何故やどうしてと疑問に思う時間があったなら、刹那の人生も変わっていただろうけど、すべてが過ぎ去ってしまった以上、それらを恨みに思っても仕方がない。
「刹那……」
 痛ましそうに歪められたグラハムの顔を見て、刹那は話したことを少し後悔した。悩める時間を持つ彼に、苛立った気持ちがあったのは確かなのだ。でも違う。そういった時間を持つことが大事であると、これからは刹那も受け入れていかなければならない。
「悩みがあるなら、解決できるまで考えればいい」
 刹那は、その時間を渡すために、生きていくのだから。
「刹那……」
 もう一度、グラハムは呟くように名前を呼んだ。その後で少し下を向き、何かを思案するような表情を見せる。
「今の俺に、悩みに思うようなことはない。だからアンタも自分のことだけ考えていればいい」
 何を思い悩んでいるのかまでは知らないが、それが刹那に関係することであれば嬉しいと思う。
 グラハムから感じる思考は迷いと戸惑い。最初は拒絶しかなかったのだから、その変化はやはり喜ばしいものなのだ。
作品名:MY SWEET HOME 作家名:ハルコ