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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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01/Tio estas farebla.

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 ざあざあと、降り続く雨の音。


 必死の面持ちの「相棒」は、同時に。

 何よりもあからさまな眼差しで、その願いを、伝えてきていたから。


 だから。



「いいだろう」



 その「望み」、叶えてやろうと、思った。





kara geamiko / 04

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 唖然とした顔でこちらを見上げてくる親友の間抜け面を見遣りながら、自分で言い出したくせにと、ふとおかしくなる。



「……で? どうすればいい」



 差し出されたままの右手を無造作に握れば、咄嗟にか、引っ込めようと弱弱しく引くから、それを許さないように、強く、力を込めた。



「ルイ……ルイシャン」

「何だ」

「本当に……だって、これは……」

「くどい。いいと言っただろう」

「だけど……! この「呪いの紋章」は……」

「テッド」



 遠雷と、嵐と、すべて。

 ざあざあと降り続く雨の向こうに押し隠してしまおうとする、薄茶の瞳を、逃がしたくない。



「お前が……300年間。持っていた紋章だろう」



 俺が、是、と言おうが、否、と言おうが、そのどちらも、お前の望みだと言うのなら、どちらを選ぶかは、俺が、決める。

 ……それに。



「なら、俺がそれを恐れる理由が、どこに在る」



 視線を、絡ませる。

 こちらを見返すそれは、けして、力を失ってはいなかったから。


 笑って、見せた。



「……ルイ。すまない……すまない」

「そろそろ時間がない。さっさとしろ」



 くしゃりと、目の前の相棒の顔は、歪んだけれど。

 瞳は、まだ、濡れていなくて、こんな時でも、涙を見せない、可愛げのない奴だと、改めて感心させられる。



「……ルイ」

「何だ」



 ぐっと、手を握り締めたテッドの目が、強く、強く。

 こちらを射抜いていた。



「この紋章は……お前に、不幸を、もたらすかもしれない。そのときは、俺を、恨んでくれていい。憎んでくれて、いい」



 ふっと、表情を消す顔と、伏せられた瞼。



「だから」

「解っている」



 言いたいことも、言いたくないことも、言わないことも、ぜんぶ。


 無駄に、2年間。一緒に居たわけじゃ、ない。



「存分に恨ませてもらう。憎ませてもらうからな。だから、テッド。お前は、俺の恨みつらみを全部聞くまでは、生きてろよ」

「……ルイ」

「待ってろ。その阿呆面にこの紋章、叩き返してやる。それまでは……誰にも、渡さない」



 この意味が、解るだろう? お前なら。

 この俺の、ただひとりの、「親友」。

 ほかの誰でもない、かけがえのない、「相棒」。



「ありがとう……ルイ」



 開かれた、瞳の向こう。絡んだ視線を伝って、何かが、内に入り込んでくる、感覚。

 暗く狭い部屋を埋めるような、質量さえ持ちそうなほど、圧倒的な、「力」。


 受け止める、こちらも。

 それから、たぶん、送り出す、あちらも。


 気が抜けるほどに、それは違和感がなく、ただ、絡んだ視線をよすがに、ひとつに繋がり、それから、それから。



「……ルイ」



 ふっと、笑ったテッドを、見て。

 ああ、もう別々の存在に戻ってしまったのだと……たった今、身を包んだ感覚を、何よりも惜しく、思う。



「俺は……この300年間、安らかに眠れたことが、なかったんだ。でも、これで、ゆっくり……休める気がする……」

「……寝てろ。その間に、全部片付けといてやるから」

「生意気、言いやがって……でも、それなら、ちょっとだけ……頼む、な……ルイ……」

「ああ。テッド」



 最後に、少しだけ、力を込めて、離される、テッドの右の手の甲。

 そこが、まるで何事もなかったかのように、ただ、白い。


 その意味を受け止めながら、今まで相棒を守り続けてきた、皮手袋を拾い上げるのと、同時に。



 ざあざあと、耳につく雨の音が、大きく、なった。


作品名:01/Tio estas farebla. 作家名:物体もじ。