01/Tio estas farebla.
Kion vi deziras? / 熊との遭遇と帝都脱出
北方へ、父のもとへ行こう、そして相談しよう。と、付き人たちは主張した。
―――冗談じゃない
そう、感じたのは、いつものように、一瞬で働かせた理性か。それとも?
どれだけかかる?
近衛兵だけでなく、下手をすれば帝国全土に追捕命令が出されているかもしれない中で、ろくな荷物も路銀も持たずに、そこまで行くには?
その間、あいつはどうなる?
それに。
冗談じゃない。
あいつを取り戻せるのは、俺だけだ。
Kion vi deziras? / 01
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考えていても埒が明かない、とは思う。
それでも、今現在の自分に何が出来るかと思うと、思考はそこで行き詰らざるを得なくて。
らしくもなく、何の行動も起こせないまま、時間だけが過ぎていく。
居ても立ってもいられない、などという気分を味わったのは、生まれてから何度目のことだろう。
数えるほどもないのは確かだけれど、そんなものを悠長に数えている余裕すら、今の自分にはない。
今は、ひたすらに忍ぶべきときで、そんなことはわかっている。
わかっている、のに。
「ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃん!?」
「グレミオ、うるさい」
「でででですが、あのその……」
無意識のうちにも、掌にしっくりと馴染む、漆黒の棍。
手繰り寄せたその感触を確かめて、おもむろに立ち上がれば、焦った世話役の声が、それを押し留めようとする。
静まり返った視線でそれをひと撫ですれば、黙らせることは容易だけれど……結局。
手にした棍を一度だけ眺め、ルイシャンはそれを壁に預けた。
それでも、そのまま共に、そこに休むつもりなどは、毛頭なく。
無言で身を翻そうとしたその目前に、す、と。
立ちふさがる姿が、ある。
「何のつもりだ、クレオ」
「それはこちらの台詞です」
当然、その腰に提げた飛刀に触れはしないが、その顔つきと言えば丸きりの、「臨戦態勢」で。
感情のひとつも乗せない眼差しが、ひたすらに冷ややかだ。
「今がどういう状況か、ご存知じゃないわけでもないはずですね」
「無論」
「なら、坊ちゃん」
押し返すように、一歩、距離を詰めるクレオを見遣って、これ見よがしにため息をひとつ。
「わかっていて、やっているんだ。下がれ、クレオ」
言葉と同時に、ばさりと鳶色の外套を羽織り、常、頭に巻いたバンダナを取り払う。
「必要だと、俺が判断した」
だから、退けと。
これまで、滅多に使うこともなかった、けれど何ゆえか舌に馴染む命令の形で、言い捨てる。
それに対して浮かべられた、クレオの瞳に宿る色が、あまりにも予想通りで。
不安と、反発と、当惑と、服従と……
―――吐き気がした。
「邪魔をするな」
最後、通告と。
意志を込めて告げれば、開かれる、階下への……外への、道。
それが、こんなにも容易いことが、こんなにも、容易くしてしまう、自分が、世話役たちが。
可笑しくて、哀れで。
やはり、お前がいなければ、駄目なのだと。
「お前たちは、ここに居ろ」
「坊ちゃん!」
「俺と、お前たちと。街の者にも、兵たちにも、顔が売れているのは、どちらだと思う?」
厄介払いか、思いやりか、ただの事実か。
どれが自分の中の真実かも見定められず、それでも、淀むことなく告げてしまえる自分が、ひたすらにわずらわしい。
ただ、ひとつ。
間違えようのない自分の中のほんとうは、
かけがえのない、相棒。
作品名:01/Tio estas farebla. 作家名:物体もじ。