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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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リヒャミュで忠犬5題

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2 それは聞けない命令




「寄るな」



 と言われたから、一歩だけ退がった。
 ―――代わりに、彼の視界に入ることにした。


「黙れ」



 と言われたから、何も言わないことにした。
 ―――けれど、彼の視線を得ることは、禁じられていない。

 けれど、それ以上を、彼は決して言わない。

 「しばらくどこかに行っていろ」と言われることはあっても、「帰ってくるな」と言われたことはない。


 たぶん無意識にだろう、何度も舌打ちを漏らしながら、それでも、じっと彼を見ていることを許してくれる。


 歩き出した彼に、距離は保ったまま、ついていきながら、思う。


 「見るな」「来るな」そんなことを、彼は絶対に言わないだろう。
 ―――何故なら彼は、知っている。
 彼が言えば、従ってしまうだろうに、決して言わないのだろう、と思う。
 ―――その瞬間、役に立たなくなったこの目をこの身を、すぐさま壊してしまうことを。
 彼の言葉には、必ず従ってしまうのに、それでも、それだけは、聞かなかったことにしてしまいたいと。
 ―――彼の姿も声も気配すらも得られないなら、この存在に意味などない。

 そう思う自分を、彼は知り尽くしているのだから。


 故にこそ、この忠誠は、彼に。
 ―――この身もこの意志も、すべて、そのために。


 ―――今あるものは、すべて、彼が与えたものなのだから。
 だから、緩んだ笑顔で、今日も彼を、追う。