リヒャミュで忠犬5題
3 絶対的な信頼
ひゅん、と打ち振っても、突起の多い鉄棒から血糊が落ちきることは、ない。
頭を割られて絶命した敵兵には目もくれず、彼は拍車を蹴った。
戦場はすでに混乱の体で、敵も味方も一瞥では測り難く、ましてや今、どちらが優勢か、ということなどわかりはしない。
「ひるんでんじゃねぇ! じきに右翼と合流する!!」
それでも、それを疑いはしない。
―――必ず、相手は突破してくる。彼のもとまで迷いもなく。
見ることも出来ない、近くまできているはずの、味方の一隊。
それを率いるのは、あいつなのだから。
作品名:リヒャミュで忠犬5題 作家名:物体もじ。