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そうして愛をむさぼって 2

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「ルート君も来てくれたのね、ありがとう」
良い子良い子。
腕を伸ばしてルートヴィヒの金髪をなでる。オールバックの髪型を崩さないように丁寧に。
「・・・いや、エリザベータ・・・もうそんな歳でもないだろう」
困ったようにルートヴィヒ。
彼はドイツ諸国の末弟として生まれたから、マジャルである(つまりその領土を繰り返し脅かしてきた)彼女は、彼のことをほんの少年の頃から知っている。
ゲルマンの悲願とも言うべき民族統一、その第一歩である小さなルートヴィヒ。
彼の数多い兄たちは、程度の差こそあれゲルマン式の厳格な教育を彼に施していた。
だからエリザベータは、自然、彼にとって姉と母親を兼ねたような役割になっていた。
甘い物が好きな彼にクーヘンを焼き、かわいい物が好きな(しかし兄たちにそれを見せられない)彼のためにちいさな熊のマスコットを作る。
幼い頃から非常にストイックで聞き分けの良い子だったルートヴィヒが、子供相当の笑顔を見せられる、数少ない人間の一人がエリザベータだった。

俺は誰より強い男になるんだ、兄さんみたいに。

そう宣言したとき、彼は確かにエリザベータを見上げていたというのに。
今は花嫁の高いヒールの力を借りても、ぎりぎり手が届くか届かないかというほど背が高くなっている。
「そんな歳でなくても、ルート君はいつまでも私の弟よ」
そう言ってエリザベータは花のように微笑む。
ああ、きれいだ。
ルートヴィヒは目を細め、花嫁の一点の曇りもない笑顔に顔を綻ばせた。
「ああ、結婚おめでとう・・・姉さん」
この人が本当に自分の義姉になってくれればよかったと、そうルートヴィヒは思う。
エリザベータの夫となるローデリヒは確かに自分の兄貴分の一人ではあるけれども、併合時代のあれこれで、兄と言うよりは手のかかる同居人といった感が強い。
ちらりとここにはいない自分の兄、ギルベルトを思った―――銀髪紅瞳の軍国の化身、エリザベータにとっては腐れ縁の幼なじみ。

ルートヴィヒは昔から二人のどつきあいと、なんだかんだで仲良くしている様を見て思っていたのだ。
兄さんはエリザが好きなんだろう。そしてエリザも(気づいてはいないかもしれないが)兄さんを憎からず思っているのだろう、と。
だからフライパンで殴られても殴られても、懲りずちょっかいを出す兄を内心応援していたのだ。
・・・兄さんがエリザベータと結婚したら、みんなで同じ家に住もう。そして休日はエリザとクーヘンを焼いて、いちいち文句をつけてくる兄さんを諫めて、みんなでおいしい紅茶を飲むんだ、と。

だが、現実は違った。
度重なるオスマン帝国からの侵略に、エリザベータは国力を低下させ、寄る辺ない身をローデリヒの館に寄せていた。
そしてローデリヒの穏やかで優しい愛情は、生まれてこの方戦ってばかりだったエリザベータの心を少しづつ解いていった。
わかりやすく、健やかで、お互いを慈しむ愛。
いくら百戦錬磨の戦士と言えど、本質は一人の少女であった彼女に、ローデリヒは春の光のように慈愛に満ちた存在だったのだろう。
髪を伸ばし、淑やかに美しくなる彼女は、光の下で一人前の女になっていった。
そして彼女の中に確かにあったであろう、ギルベルトに対する「憎からぬ思い」―――限りなく友情に近かったそれは、
愛情という成分をローデリヒへの思いに奪われ、次第に本当の「友情」へと変化していった。

彼女が悪かったのではない。
そしてギルベルトが悪かったわけでもない。

そう、兄は不器用で、ただ愛し方を決定的に間違えたのだ。