永遠に失われしもの 第14章
「どんな記録ですか?」
セバスチャンは戦闘姿勢を止めて、
グレルに問いかける。
「え?そんな面白い記録ってあったかしら?
さっきの地下墓地でショ?・・・
あー・・モウね~今日たっくさん留置場の
黒こげやら何やら回収しまくったから、
もう最後の方は、
アンマリ良く覚えてないっていうか・・
名前しか控えなかった・・ていうか・」
グレルは黄緑色の目を泳がせながら、
しどろもどろに答えた。
そんなグレルを見て、
葬儀屋は可笑しそうに笑っている。
「あらら...
ウィル君にきっと叱られちゃうねぇ...」
「言わないでョ!絶対・・
半殺しにされちゃう・・
・・一々見なくたって人間ごときに、
世界を変える可能性のある救うべき魂
なんてあり得ないんだし、
あとで報告書書くときに、きっちり、
レコード見直すんだから」
「では今すぐ見直して来てくれませんか?」
「無理よ~~アタシ、
セバスちゃんとガキの事、
見張ってなきゃなんないんだもん・・
明日朝、交代が来たら、
ちゃんと見て教えてあげるから・・
だから、もう今日はここで
大人しくしててね、
もう、アタシ限界・・・」
葬儀屋は、自分の棺を寝台代わりにして、
中に閉じこもるようにして眠ってしまい、
しばらくはシエルをどかして、
自分がベッドにセバスチャンと寝ると、
じたばたしていたグレルも、諦めて、
今は疲れ切った様子で、
ソファーで眠りこけていた。
セバスチャンはトランクから、シエルの
寝間着を出して、着替えさせ始める。
--こんな所で泊まる予定は
なかったのですが、仕方ありません--
シエルの魂の状態からして、
いつまた召還されてもおかしくないような
この状況では、セバスチャンはシエルを
独りで置いていくわけには行かなかった。
--本来ならば、
オレイニク家に以前勤めたことのある、
全使用人を今日、仕留めておくつもり
でしたのに--
部屋の蝋燭を全て消して、
月の明りのみ照らす部屋の中、
この計画の狂いが修正できるのかどうか、
セバスチャンは、ひとり考えていた。
シエルの着替えを終えて、
その小さな体に寝具を掛けると、
部屋をずるずると這う音がする。
--?何の音でしょう--
見ると、グレルがソファーから落ち、
セバスチャンの居る方向へ、蛇のように
這っている。
しかしその瞳は閉じられている。
--何なんですか?? 気色の悪い--
シエルの寝台に寄せ付けまいと、
グレルの長く赤い髪をつかんで引きずり、
ソファーへ戻す。
するとグレルは、セバスチャンの首に
両腕を巻きつかせて、
その燕尾服に包まれた肩に頭をのせ、
抱きついてきた。
引き離そうにも、
物凄い力でしがみついている。
--何て、馬鹿力!--
やっとの思いで振りほどき、
ソファーに寝たグレルを確認して
立ち去ろうとすると、
今度は太ももに両腕でしがみついている。
--どんな寝癖ですか!?--
ひらりと体を回転させて、反対側の足で
グレルのことを回し蹴りし、ようやく
その腕が離れた。
かと思うと、
「イヤン・・そ・こは・・セバ・スちゃん・・
そこ・・だけは・・クッ・・ァアッ・・
ダメ・・見な・・いで・・ンアッ・・グ・
クッ・・ハ・ァ-~ン・・
そんな~・・こんな・・ことって・・」
グレルの妖しい喘ぎ声と嬌声が広がる。
--一体どんな夢見てるんですか!?
グレルさん!--
「ウィルも~?・・じゃぁ一緒に・・」
--真剣に、今もどしそうです、私--
セバスチャンは意を決した顔をして、
グレルの寝るソファーに戻り、
思いっきりグレルのベストと白シャツを引きちぎった。
作品名:永遠に失われしもの 第14章 作家名:くろ