永遠に失われしもの 第14章
古めかしい棺の蓋が、
きぃーと音を立てて開いた瞬間、
心地よく張りのある声が響く。
「お目覚めになられましたか?」
大きな欠伸をしながら、
葬儀屋が棺から完全に身体を出す間に、
セバスチャンはカーテンを開けて、
室内に朝日を取りこんだ。
「よくお休みになれましたか?」
セバスチャンは、手際よく
モーニングティーの用意をしながら、
葬儀屋に尋ねる。
「ふぁ~...おはよう、執事君...って!!」
上半身の衣服を裂かれて、
その布地を破って作られた紐状のもので、
ロココ調の猫脚ソファーに、
手足を縛り付けられ、猿轡を噛まされた
グレルを見て、葬儀屋は驚いていた。
「ああ--忘れてました。
グレルさん、紅茶の用意が出来ましたら
外してあげましょう」
猿轡ごしにくぐもった声が
微かに聞こえるが、
何を言ってるのかは分からない。
そんなグレルににっこりと
微笑みかけながら、
セバスチャンは、猿轡を外す。
「ひょ・・んな・・ひゅみが・・
あっひゃなんひぇ・・」
猿轡は外されたものの、その緊迫により、
すっかり麻痺した舌にてこずりながら、
喋るグレル。
「朝から刺激的なシーンだねぇ..ヒヒ」
「グレルさん。
今後、私やぼっちゃんの監視を
なさるのでしたら、
夜は永遠にお休みになられるか、
二度と寝ないか、
どちらかにしてくださいね」
セバスチャンが、
グレルの手足の緊迫を取ろうとした時に、
その鼻先を棒状のデスサイズが
掠めていく。
「汚らわしい・・悪趣味にも程がある」
朝日を逆光にして、ベランダの柵の上に、
ウィルがデスサイズを片手に立っていた。
「ウィル~~」
「グレル・サトクリフ!交代の時間です。
ですが、何ですか、その格好は?
みっともない」
ようやく手足の緊迫が解かれたグレルは
手首に深く残った跡をさすっている。
「私は自分の服を破っただけですよ--
グレルさんが、
勝手に盗んでいかれた--」
「ともかくその格好をどうにかしなさい!」
グレルは脱ぎ捨ててあった、
赤いコートを羽織って、
服の前を両手で合わせて、
はだけた胸を隠した。
「貴方が嗜虐志向なのは分かっていましたが
こういう下劣な趣向があったとは・・
さすが害獣だけありますね」
ウィルは、ありったけの軽蔑を
含めた表情をして、部屋に入ってくる。
「私のぼっちゃんに手枷足枷つけて、
薬漬けにされる貴方ほどでは
ありませんが?」
負けじと侮蔑と嘲笑の混じった口調で
返すセバスチャンと、ウィルとの間に、
見えない火花が散った。
「朝から、私の部屋は、
物凄い人口密度だねぇ・・ヒヒ」
「大先輩である貴方のような方に、
大変ご迷惑かけて申し訳ありません」
ウィルは葬儀屋に、上半身を曲げ、
深くお辞儀しながら、謝っている。
「グレル・サトクリフ!
あと十五分後に交代しましょう・・
貴方に折り入ってお話が・・
この害獣には聞こえない場所で」
と、ウィルは葬儀屋の腕をつかみ囁きつつ
セバスチャンを睨みつける。
「オッケ~待ってるヮ。
髪解かして、お化粧し直さないと、
これじゃ外にも出れないしね・・
あ、死神協会行くんだったら、
ロッカーから替えのシャツお願いね、
ウィル・・」
「まったく・・アナタって人は!」
と文句を言いながら、葬儀屋とウィルは
空間に消えていった。
作品名:永遠に失われしもの 第14章 作家名:くろ